“無添加食品”ブームに専門家異論 「逆に健康損ねる可能性も」

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 スーパーや百貨店で目にする機会が増えた「無添加」の表示。知っての通り、人工保存料などの添加物を使っていない食品のことだ。「薬品」が入っていないから、消費者はなんとなく「安全」な気になっていたが、実はそうでもないらしい。「長村教授の正しい添加物講義」(ウェッジ)で“無添加安全社会”に異を唱えるのは、日本食品安全協会理事長で鈴鹿医療科学大の長村洋一教授(顔写真)だ。藤田保健衛生大で30年以上、臨床検査研究に従事し食品の安全性を調査してきた。ベテラン教授を直撃した。

「平成7年に食品衛生法が改正され、添加物に関する安全性はリスク管理の観点から確保されたと考えています。例えば、厚生労働省が安全性試験を義務付けている指定添加物に関しては、この41年、危険性が認められて使用禁止になった例はありません。とはいえ、実は私も、それまでは添加物をネガティブに捉えていました。昭和20年代後半から発生した水俣病、イタイイタイ病などの公害による食中毒や昭和40年代以降、添加物『チクロ』『バターイエロー』と次々に発がん性が見つかり、消えていったためです。昭和50年代初めまでに青年期を迎えた世代には、添加物=危険な化学物質のトラウマともいうべきものがあります。この世代の消費者は猛烈な添加物排斥運動も行ってきたので彼らを意識し、食品産業は“無添加”にシフトしたのです」

 食品による健康被害は大きく4種類ある。

(1)糞便系大腸菌群の増殖している食品。毎年もっとも多い食中毒はこの食中毒菌による食中毒だ。
(2)マイコトキシンが入っている食品。カビが生産する毒素で発がん性、肝障害、腎障害などの原因となる物質。
(3)過酸化脂質が含まれる食品。中性脂肪など油脂成分が活性酸素によって酸化し生成。がん、動脈硬化に影響するとされる。
(4)フグ、キノコ、貝など毒性のある物質が入っている食品。

■意外にも健康志向のほうが摂取

 中でも、(1)~(3)の食品は、出来たてを食べれば食中毒はほとんど発生しない。安全な添加物で、出来たての状態に保っているのが現実だ。

「保存料無添加の食品は、添加された食品に比較すれば菌の増殖は早い。また、これからの時季、商品の輸送や陳列など温度変化が激しい環境にさらされるから“鮮度”が保てない。リスクは高まります。そのためスーパーなどでも、『無添加』食品の期限前の廃棄量は増えていて、経済的にも非効率です。保存料を添加することで、細菌の増殖を抑制し、食中毒の抑制と商品の日持ちを良くする。確かに、人工保存料ソルビン酸は体にはない成分ですが、研究によって栄養素と一緒に分解され、食塩より危険性が少ないことが分かっています」

 実は健康志向の方が、意外に添加物を取っている。というか、避けて通れない存在と言ってもいい。

「添加物はトクホ食品の素材として重宝されています。例えば、『増粘多糖類』には血糖値やコレステロール値を下げる働きがあります。また、知ってもらいたいのが塩分を必要とする食品は無添加によって味が薄くなってしまいます。減塩で『うま味』を出すためには大量の昆布、かつおだしなどを使用しなければならないが、簡単にごまかせるのが『塩』なのです。一般の無添加をうたうレストランで、大量の塩分で味を調整する店は少なくありません。循環器疾患、がん予防のため、減塩が提唱される世の中で、やみくもに無添加にこだわることが、逆に健康を損ねている可能性も考えた方がいいでしょう。現実に高血圧、予備群を含む糖尿病、メタボ、慢性腎炎、嚥下(のみ込み)困難者など約6000万人を超える方々の安全な食をつくるためには添加物は必須です」

 無添加だから大丈夫なのではない。何をどのくらい食べるのかが大事なのだ。

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