専門家に聞く 狭心症治療の新兵器「薬剤コーテッドバルーン」

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(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

「薬剤コーテッドバルーン」は、狭心症治療の新兵器だ。これまで対処しづらかった症例に有効だという。東邦大学医療センター大橋病院循環器内科・中村正人教授に聞いた。

 狭心症は、動いた時に胸の圧迫感や痛み、息苦しさなどが生じる病気だ。全身の血管の動脈硬化によって心臓に続く血管(冠動脈)が狭くなり、血流が悪くなるのが原因。

「血管が75%以上狭窄しないと狭心症の自覚症状は表れません。狭心症の中には心筋梗塞に移行するリスクがあるタイプもあるため、〈症状が持続しないから大丈夫〉と考えるのは危険です」

 狭心症の治療は、太ももの付け根や手首からカテーテル(細い管)を入れ、バルーンという風船で狭窄部分を広げ、ステント(網目状の金属の筒)を留置し、血流の通り道を確保する。

 現在は、留置するステントに、血管の細胞の増殖を抑えるリムス系免疫抑制剤という薬剤が塗られている。以前は狭窄部分を広げても、血管の細胞増殖で再狭窄を起こす人が20~30%いた。この薬剤を塗ったステントの登場で再狭窄が6~8%ほどに激減している。

 しかし、0%になったわけではない。

「再狭窄を起こすと、留置したステントの中に、さらにステントを入れる治療が行われます。金属の筒が二重になれば、血流の通り道は狭くなり、血管の柔軟性は失われます」

 再狭窄を起こす人は、それ以降も狭窄を繰り返すことがある。いくら網目状とはいえ、金属の筒を三重にするわけにはいかず、これといった治療法がなくなる。

 ところが2014年、冒頭の「薬剤コーテッドバルーン」が保険承認され、6~8%の再狭窄を起こす人の治療法が変わった。

「薬剤コーテッドバルーンは、バルーンにパクリタキセルという薬剤が塗られています。狭窄部分でバルーンを1分ほど広げると薬剤が血管に浸透します」

 この薬剤によって血管の細胞の増殖が抑えられるので、ステントを再び入れることなく、再狭窄を防げる。当初は、「バルーンに薬剤を塗っても、狭窄部分に届く前に流れてしまうのではないか」などと疑問視する声もあったが、造影剤を混ぜるなどの工夫によって狭窄部分まで確実に届くようになった。

 先行して臨床に使われていたヨーロッパでは成績が非常に良く、日本での臨床試験も、薬剤を塗布したステントを使う場合と、ほとんど同じ成績だった。

「バルーンですから、血管に何かを留置するわけではありません。ステントを二重に使った時の問題点が解消されるのです」

 つまり、血流の通り道が狭くなったり、血管の柔軟性が失われることがない。再狭窄を起こしても、何度でも行える。保険承認されたのは「再狭窄(狭心症の再発)」に対してなので、最初の治療にはステントが使われているが、再狭窄を起こした患者には、薬剤コーテッドバルーンを用いる医療機関が増えているという。

 狭心症に対するカテーテル治療の進歩は目覚ましい。実用化はまだ少し先だが、「溶けるステント」は臨床試験が終了。留置したステントが数年以内に溶けて消えるため、血管内に金属の筒を入れることによる柔軟性の低下などの問題点が改善できるのでは、と期待されている。

 もっとも、治療法の進歩より大事なのは、狭心症の原因である動脈硬化を進行させないために、禁煙などの生活習慣改善に取り組むことだ。

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