だれもが「納得のいく適切ながん治療」を受けたいと思っている。知っておくべきことは何か?
「『抗がん剤は効かない』の罪」などの著書がある日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科・勝俣範之教授に聞いた。
■治療目的
早期がんと進行・再発がんでは「治療」の目的が変わってくる。これを、まず押さえなくてはならない。
「早期がんは、再発を減らし、治癒を目指すのが目的。一方、進行・再発がんは、がんとよりよい共存を目指すのが目的です」
進行・再発がんは、残念ながら治癒が難しいのは事実だ。しかし、たとえば「がんとよりよい共存を目指す」段階の転移性大腸がんでも、「8割が化学療法で治癒すると誤解している」という報告もある。
「進行・再発がんの患者さんが医師と終末期ケアの話し合いをしていないと、精神的苦痛が多く、最後の週に蘇生術など積極的治療が行われる傾向があり、QOL(生活の質)が低くなる」
勝俣教授は、進行・再発がんの患者には必ず「大切にしたいこと、楽しみにしていること」を聞く。ある患者は「それでも免疫療法を受けたい」と言ったが、「免疫療法は非常に高額であるが、確立したエビデンスがない」ことを説明。次第に患者は「世界一周旅行をしたい」と話すようになり、免疫療法はせずにこれまで3度の世界一周旅行を楽しんだ。
「家族と普通の生活がしたい」「婚約者と結婚式を挙げたい」と話し、体力・気力がある間に実現させた患者もいる。
■医師選び
次に押さえるべきは、正しいインフォームドコンセントをする医師を選ぶことだ。インフォームドコンセントとは、治療や処置行為について医師と患者が相互に情報を共有し、決定も共有すること。
「しかし日本では今、患者が情報をもらい、患者が決定する“患者自己責任型”が主流。裁判で訴えられないように、医療者の防衛の手段としてインフォームドコンセントが使われている一面がある」
本来は、前出の通り“共有”であるべき。「この治療は副作用が強い。やるかやらないか、次までに決めてきてくれ」と決定権を患者に委ねる医師は避けた方がいい。
■緩和ケア
さらに、緩和ケアについても知っておかなくてはならない。
緩和ケアというと、「打つ手がなくなった時に受けるもの」と考えている人が多い。しかし、これは間違い。緩和ケアはがんと宣告された時から始まるもので、病気に伴う体と心の痛みやつらさを和らげるのが目的だ。
「緩和ケアは“第4の治療”です。その効果は、さまざまな研究で実証されています」
151人の手術適応のない肺がん患者を「化学療法のみ」と「化学療法+早期からの緩和ケアチームによる月1度以上のサポート」に分けた研究では、QOLの向上、うつ症状の軽減、亡くなる60日以内の化学療法日数の減少、生存期間の延長の効果があった。
「早期緩和ケア群では、亡くなる60日前に化学療法をしていた群はわずか1割。つまり、残りの人生を好きなことをするのに費やすことができた。しかも、緩和ケアを加えた群は、2.7カ月の延命効果がみられました」
「抗がん剤は悪」という情報に踊らされ、治癒が見込めるのに適切な治療を受けない人もいれば、最後のギリギリまで抗がん剤を投与され、好きなことができる貴重な時間を失う人もいる。不幸な結末を迎えないために、特に3つのことを押さえておくべきだ。