梅雨の晴れ間は「盲腸」に要注意 夏場に発症なぜ増える?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「経験上、梅雨の晴れ間に盲腸(急性虫垂炎)の患者さんが多くなると感じる医師は結構います」

 こう言うのはサラリーマンの病気に詳しい弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長だ。

 急性虫垂炎は大腸にある盲腸と呼ばれる部位の下端に突出した虫垂突起の炎症を言い、一生の間に7%が発症するありふれたお腹の病気だ。一見、季節や天気とは関係なさそうだが、実は大ありだという。

 昨年の日本外科学会定期学術集会で伊万里有田共立病院グループが発表した〈急性虫垂炎の発症と季節の関連性〉によると、同院で手術した139例の急性虫垂炎を調べたところ、3~5月(春)は27例、6~8月(夏)52例、9~11月(秋)が27例、12~2月(冬)33例と夏場の虫垂炎が多かった。

 同様の研究結果はフィンランド、カナダ、米国などでも報告されている。なぜ、夏に盲腸が多いのか? 前述の研究論文をまとめた、池田外科医院(長崎県)の池田圭介医師が言う。

「夏場は細菌が繁殖しやすく、虫垂壁の炎症による管腔の狭窄や閉塞で、急性虫垂炎を引き起こすと考えられます。伊万里有田共立病院のデータでは、夏場に目立つのは10~40代の若い層の虫垂炎でした」

 池田医師らの論文では触れられていないが、他のいくつかの論文では気温が高いだけでなく、気圧の低い方が盲腸の発症が多いと指摘している。前出の林院長が言う。

「ヒトの免疫細胞には体内に侵入した細菌や細菌の死骸を食べて掃除する顆粒球と、ウイルスや細菌に感染した細胞を攻撃するリンパ球があります。低気圧で副交感神経が活発になると、顆粒球が活発に働き、大量の酸化酵素が発生します。その結果、消化器内の細胞を傷つけるなどして虫垂炎になると考えられているのです」

 気圧の低いときに目立つのでなく、気圧が高くなる梅雨の晴れ間に盲腸が多くなるのは顆粒球が活発になって盲腸を発症するまでにタイムラグがあるからだ。

“盲腸なんて大した病気ではない”と、甘く見てはいけない。ときに死に至ることもある。

「急性虫垂炎は大きく3つのタイプに分かれます。(1)抗生剤での治療が可能なカタル性(2)膿が虫垂突起のなかに充満した蜂窩織炎性③虫垂組織が壊死して穴があき手術が必要な壊疽性です。(3)のケースは発見が遅れると腹膜炎や敗血症といった重篤な合併症を起こし、亡くなることも珍しいことではありません」(林院長)

■食中毒との違いは“痛みの移動”

 ならば、さっさと手術で切ってしまえばよさそうだが、それも考えものだ。長年、虫垂は無用の長物と考えられてきたが、虫垂が粘膜の免疫に関わる細胞を供給して、腸内細菌のバランスをとっていることがわかってきたからだ。

「腸内細菌のバランスの良さは長寿につながります。以前は婦人科系の手術をする際、症状はなくても盲腸を切る時代がありましたが、いまはそういう風潮はなくなりました」(林院長)

 そのせいか、日本では手術が選択されるケースでも、欧米では日本の3倍近い抗生物質を使って抑えるケースもあるという。

 盲腸は食中毒と違って痛みが移動することが特徴。最初はみぞおちやへその周りが痛み、右下腹部が痛むのは最後の段階。これに発熱、嘔吐が加われば、重症の可能性もある。

 この時期はいつもと違うお腹の痛みを感じたら、すぐに病院で診てもらうことだ。

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