昨夏、都内を中心に流行したデング熱。それまではアジア、アフリカ、中南米などの熱帯・亜熱帯地域にだけ土着するといわれていた感染症だが、日本で160人もの感染者が出て、大騒ぎになった。猛暑が続いて“熱帯化”している日本では、もはや蚊を媒介する世界の感染症と無関係ではなくなった――。
蚊の活動が活発になる季節を迎えた。デング熱のように、現代の日本ではあまり注視されていなかったような蚊媒介感染症が突然、流行する可能性もある。国立感染症研究所の西條政幸氏(第1ウイルス部部長)はこう言う。
「蚊媒介感染症は、感染した渡航者がウイルスとともに日本に入国し、国内に持ち込まれるケースがあります。これから日本で流行する可能性があるものとしては、デング熱の他に、マラリア、チクングニア熱、ウエストナイル熱などが考えられます。治療が難しかったり、治療・予防法が確認されていない感染症なので、注意が必要です」
もっとも危険なものは、ハマダラカが媒介する「マラリア」だ。マラリア原虫は4種類存在し、発症から早期に治療しなければ死に至る場合もある(熱帯熱マラリア)。
よく知られている感染症だが、日本ではあまり注目されていない。しかし昨年、エボラ出血熱を疑われた帰国者のうち4人がマラリア感染者だったことをみても、渡航者を介して頻繁にマラリア原虫が日本にも入っていることがわかる。
日本で大流行する可能性は高くないが、衛生環境の悪化によって感染が広がる場合がある。北朝鮮や韓国など近隣国でも流行しているから、注意しておいた方がいい。
■治療や予防法が確認されていない病気も
アフリカ・南アジアに土着し、近年、アメリカ大陸にも上陸した「チクングニア熱」も、流行の危険性がある。
「チクングニア熱、ウエストナイル熱の媒介蚊であるヒトスジシマカは日本にも生息しています。ウイルス感染者が日本に入り、ヒトスジシマカに刺されれば、蚊は国内でウイルスを獲得します。その蚊を介して、日本人に感染するサイクルが生まれると、デング熱のように夏の間だけ流行する可能性はあります。急性の発熱、関節痛、発疹などの症状が表れます」
ただ、ウエストナイルウイルスは、日本に土着する「日本脳炎」の類似感染症で、日本人はそれらのウイルスに対して一定の抵抗力を持っているため、常時流行地になる可能性は低いといわれている。
コダカアカイエカが媒介する「日本脳炎」にも気を付けたい。ワクチン接種が義務付けられるようになってからは、毎年数人の発症で抑えられているが、1人の発症につき100人の感染が存在しているという。ワクチンを打つ前の幼児や、ワクチンを打っているが免疫力が落ちてしまった高齢者などは発症の可能性が高い。
感染すると、高熱、頭痛、嘔吐などの症状に襲われ、急性脳炎を引き起こす。最悪の場合は、後遺症が残ることもある。甘く見ない方がいい。
何種類も存在する蚊媒介感染症の治療は対症療法のみで、予防接種もない。予防が何よりの対策だ。昼夜問わず、郊外や虫の多い場所へ行く場合は、虫よけスプレーや肌の露出を控えるなど、対策を徹底したい。