海外地域別 あなたの知らない「高致死率」感染症と予防法

 夏休みは海外で過ごすという人も多いだろう。今年の夏季期間の出国旅客数は前年同期比6%増の約44万人に上る。海外には、日本ではあまり知られていない感染症がたくさんある。トラベルクリニックを開設し、感染症に詳しいナビタスクリニック立川の久住英二理事長に詳しく聞いた。

「世界には致死率が高く、治療法のない危険な感染症が多く存在します。ワクチン接種や予防のための知識を得てから渡航することが、予防の鍵となります」

 地域ごとに特に注意すべき感染症がある。それぞれ代表的なものを挙げてもらった。

◆南アジア・東南アジア

「狂犬病」に気を付けたい。発病した際の死亡率は100%で、世界で年間死者数は約5万5000人と推定されている。そのうちの約3万5000人はインドでの感染だ。

「日本では狂犬病予防法によって、犬は全頭が登録され、ワクチン接種が義務付けられているため、狂犬病は存在しません。しかし、隣国と国境を接する大陸の諸外国では、自国だけ対策を講じても意味がないため、アジアを含むユーラシア大陸のほか、アフリカ大陸、アメリカ大陸の国々でも、全世界的に感染者を出しています」

 犬へのワクチン接種が行われない国は多く、かつすべての哺乳類に感染するので、あらゆる動物に注意が必要だという。

 インドや医療資源のない地域に長期滞在する場合、予防接種(3回接種で最短3週間かかる)を打ってから渡航すべし。もしも犬に噛まれたら、予防接種の有無にかかわらず、すぐに病院を受診したい。

◆アメリカ大陸

 トリパノソーマ・クルージという原虫を持ったサシガメ(昆虫)が媒介する「シャーガス病」が流行している。刺されたり、糞に含まれる病原体が目や口の粘膜から入ったりして感染する。

「急性感染と呼ばれる初期段階では、血液中に原虫が多数存在し、発熱や頭痛などを引き起こします。この段階で服薬すれば完治しますが、急性症状が自然に治って、気付かず慢性感染になってしまうと、原虫が消化器や心臓の筋肉を傷害して心不全や突然死を引き起こします。この段階では根治的な治療法はありません。中南米のログハウスは特に危険で、こうした場所で虫に刺されたり、刺された痕があったりで何らかの全身症状が出現したら、すぐに病院へ行くべきです」

 ワクチンはない。粗末な家屋は避けて、衛生環境の良いホテルに宿泊した方がいい。

◆欧州

「ダニ媒介性脳炎」が蔓延している。アルプスなどマダニが多く生息する郊外はとりわけ注意が必要。長袖・長ズボンを着用し、ズボンの裾もソックスに入れるなど、肌の露出をできる限り避けたい。

「皮膚に食いついているダニを無理に取ると頭だけ残ってしまうので、そのまま病院を受診してください。背中など見えにくい場所についていないかも要チェックです。牛やヤギの生乳、ナチュラルチーズを介して感染することもあり、非加熱の乳製品や生肉は食べないのが賢明です」

 ウイルスの潜伏期間は7~14日。発熱、頭痛など風邪に似た症状に続き、けいれんやめまいなどの神経症状を発症する。死亡率は1~3%と低いが、治療法がなくマヒが残る場合も。欧州では不活化ワクチンが接種できる。

◆アフリカ

 数多くの感染症が存在するが、特にブッシュミートと呼ばれる、コウモリやサルなどの野生動物を捕獲して食べることは、大きな感染源のひとつ。2013年に西アフリカでアウトブレークしたエボラ出血熱に感染する可能性もある。

「発展途上国だけに流行する感染症は、ワクチンや治療法が確立されていないことが多いので、感染すると非常に高いリスクを伴います。地域によっては、トラベルクリニックなどでしっかり予防対策を講じてから渡航することをお勧めします」

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