耳の遠い老人の“聞こえ方”が分かる「ジェロトーク」って何?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 年を取ると、誰でも「聞こえ」は悪くなる。しかし、対応する側は「子供に諭すように話しかけなさい」といった前近代的な方法論がまかり通っている。ここに科学や工学を持ち込むとどうなるのか? 登場したのが、高齢者の耳にどのように聞こえているかを模擬体験する音声システムアプリ「ジェロトーク」(ジェロとはギリシャ語の老人)だ。

 開発したのは、コールセンターのサポート業務を行う「TMJ」と「東京大学」、加齢性難聴の専門家「オトデザイナーズ」の坂本真一氏ら。高齢者の「聞こえ」に科学的・工学的なアプローチを加え、高齢者対応の話し方を作り上げた。「ジェロトーク」をコールセンターのオペレーター研修に利用して、売り上げを飛躍的にアップさせている企業が増えているというから驚きだ。

 実際に記者も「ジェロトーク」を体験してみると、くぐもったような、電波の悪いラジオを聞いているような感じ。声に抑揚がない。田舎のおばあちゃんの耳にはこう聞こえているのだ。

■導入したコールセンターで成果アップ

 改めて、「ジェロトーク」の開発者である坂本氏に聞いた。

「加齢性の難聴は、耳せんをつけている状況とは違います。すべての音が小さく聞こえるのではなく、高い周波数の音域が聞こえづらくなったり、言葉の違いが聞き分けられなくなるのです。それを理解した上で、コールセンターの高齢者向け電話対応をしたところ、リピート率が顕著に高まる傾向がありました」

 コールセンターでは、数をこなすためについつい早口になりがち。しかし、ゆっくり話した方が老人の理解が早まり、1件当たりの処理時間は逆に短縮したという。

 企業が使って効果が出ているのなら、介護や医療の現場、田舎の老親との会話に役立たないわけがない。

■ゆっくり、はっきり、大声はダメ

 ポイントは3つだ。まずは、〈ゆっくり話す〉こと。単に聞き取りやすいだけでなく、丁寧な印象になる。

「“極端”に遅いくらいを心がけましょう。NHKのラジオ深夜便が参考になります」(坂本氏)
 甲子園の熱闘が続いているが、打順を告げるウグイス嬢も同じくらいのスピード。かなりゆっくりめだ。

 次に〈頭をきっちり〉と話すこと。おばあちゃんに「今週の週末、温泉に行きましょう」と伝える場合、初めの言葉を意識する。

「こんしゅうの“こ”、しゅうまつの“しゅ”のことです。例えば、“こ”の発音は、(コッ)と(オ)で構成されています。この“こ”をうまく言えれば、お年寄りにも声が聞こえやすい。コールセンター向け講習では、2週間ほどでマスターします」(坂本氏)

 最後はやってはいけないこと。耳元で「おばあちゃん! 水を飲みますか!」とまるで怒鳴っているような人がいるが、〈大声はダメ〉が3つ目になる。

「専門家はリクルートメントと呼んでいますが、大きな音はよりうるさく聞こえます。40代以上の人には経験があるでしょうが、テレビで映画を見ていて、戦闘シーンになった途端、あまりの音の大きさに驚いてボリュームを下げたことがあるはず。これがリクルートメントの初期の症状で、これを高齢者に毎回やっていると想像してみてください」(坂本氏)

 実家に到着したら、〈ゆっくり〉〈はっきり〉〈大声はダメ〉を心がけたい。

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