夏は性感染症である淋菌などが増える季節。梅毒も近年増加傾向にあるという。2014年の感染者数は、過去10年間で最高の1275人となった。10年前と比べると約2.4倍にもなる。
梅毒は、梅毒トレポネーマという病原菌による感染症だ。感染すると約3週間の潜伏期を経て、痛みのない潰瘍などができる。いったん症状は消え、治ったかと思っていたら、3~12週間後に赤い発疹(バラ疹)、扁平コンジローマ、リンパ節膨張などの全身症状が起こる。
その後、数年間の無症状の時期を経て、大動脈瘤やさまざまな神経症状を引き起こす。ただし、治療薬ペニシリンが登場して以来、ここまで悪化するケースはほとんどない。「症状が潰瘍のような目に見える形で表れるため、大抵はすぐに病院に行く」「診断は難しくなく、ペニシリン治療で治らないケースは100%といっていいほどない」といった理由による。
では、なぜ、感染者数が増加しているのか。国立感染症研究所が公表している2001~2014年の感染者報告数の推移を見ると、とりわけ2012年以降に際立って急増しているように見える。現代の梅毒はほぼすべて、性的接触感染、つまりセックスによるもの。そこで、国立感染症研究所感染症細菌第一部・大西真部長に次の質問をぶつけてみた。
★特にこの数年で、性行為がアクティブになる(それによって梅毒が増える)ような事象があったのか。
★ペニシリンでは効かない“新型梅毒”が現れたのか。
「過去にも増えたり減ったりしている時期がありましたが、それがなぜなのか、昨年の感染者数が過去10年で最高になったのはなぜなのか、はっきりとは分かっていません。性行為に関する話はセンシティブな問題なので、そこまで調査ができていないのです。ただし、ペニシリンでは効かない梅毒は現れていませんし、梅毒は何度再感染・発症しても、ペニシリンで治ります」
■女性にも感染広まる
梅毒の感染者数は2014年10月時点で、約8割が男性。そのうち、男性と性交する男性が45%を占めている。欧米でも男性の同性間の性交による感染が圧倒的多数だ。
ただし、日本に特徴的な傾向がある。それはまず、「女性にも感染が広がっていること」。昨年と比較すると男性の増加数は1.3倍だが、女性は1.5倍だった。次に、「男性の異性間の感染も増えていること」も特徴的で、昨年と比較して1.4倍になっている。
「米国では見られない傾向です。女性の感染者増加は、男性の異性間の感染者増加の結果なのかもしれません」
ちなみに、なぜ男性の異性間の感染者数が増加しているのかも、原因ははっきりと分かっていない。いずれにしろ、これらの報告から学ぶべきことは、「梅毒は現在も世の中に存在する病気。感染経路が明らかで、リスクを下げる方法も治療法もある。それをきちんと理解すれば、安全性は高まり、感染者数も減っていく」ということだ。
「性感染症を世の中からゼロにするのは難しい。それならば、感染しない、感染を広げないための正しい知識を持つことが大事です」
今回の「過去10年で感染者数最高」というニュースを、梅毒について正しく知るいい機会にすべきだ。