Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【今井雅之さんのケース(1)】痛みも不眠も食欲不振も消すことができる

「いっそのこと殺してほしい。安楽死です。夜中にこんな痛みと闘うのは、そして飯が食えないのは本当につらい」

 今年5月に大腸がんで亡くなった俳優・今井雅之さん(享年54)は生前、ステージ4の末期がんの闘病のつらさをこう語っていました。頬は痩せこけ、声はかすれ、元気なころとは別人でした。変わり果てた姿に、そしてあの会見からわずか1カ月足らずの突然の訃報に、末期がんのつらさをひしひしと感じた方も多かったでしょう。

 日本人の2人に1人、男性だと3人に2人はがんになる時代。今井さんのケースは、決して人ごとではありません。“世界一のがん大国”に暮らす私たちにとって、“がんの壁”を越えるための知識を身につけておくことは必須でしょう。まず、今回はがんの痛みについてです。

 あの会見を見た方は、末期がんの痛みはかくも苦しいのかと思われたはず。しかし、結論からいうと、末期がんであっても、その痛みは消すことができます。そのための治療が緩和ケアです。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。