Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【今井雅之さんのケース(1)】痛みも不眠も食欲不振も消すことができる

 私の患者さんで、こんな方がいました。アラフォー美人で、キャリアウーマンの浜田伶子さん(仮名)は、5年前に左乳がんと診断されました。「乳房温存療法」は成功したのですが、背骨に転移が見つかり、その激しい痛みから一時は仕事を辞めようと思われたそうです。

 しかし、緩和ケア医と相談しながら、抗がん剤の投与と並行して「緩和ケア」を行ったところ、痛みは完全に消えて、仕事に復帰。今でも、治療を続けながら仕事に励み、今年からは部長に昇進されたことを喜んでいらっしゃいました。

 成功例はこのケースに限ったことではありません。緩和ケアとは、病気に伴う心と体の痛みを和らげることが主眼で、医学的に確立された治療です。このような治療をしっかり受ければ、痛みや心のつらさが軽くなったり、消えたりして、体調全体がよくなります。浜田さんのように仕事にヤル気が出るだけでなく、心理的な負担が軽減されて、周りの人にも優しく接することができるように。日常生活のメリットは計り知れません。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。