歯医者で治す患者増 「睡眠時無呼吸症候群」の最新治療事情

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 睡眠中に呼吸が止まる、いびきがひどい。昼間に急な眠気に襲われ、糖尿病・心筋梗塞等のリスクを上げる睡眠時無呼吸症候群。治療は耳鼻科や内科などの専門医に頼むのが一般的だ。しかし、最近は「手軽で便利だから」と歯科医院で治療する人が増えているという。

 田中純一さん(仮名、54歳)は夏休みの家族旅行で、交通事故を起こしかけた。

「知らないうちに居眠り運転していて、信号待ちの車に追突する寸前でした」

 田中さんは170センチ、98キロと典型的なメタボ体質。3年前、妻に「寝ているときに呼吸が止まっている」と言われ耳鼻科を受診、睡眠時無呼吸症候群の診断を受けた。

「治療として鼻に装着したマスクから空気を送り込むことで気道を確保するシーパップ(CPAP)という機械をつけて寝るよう指導されました。つけている間は無呼吸にならないのですが、マスクとヘッドギアが邪魔で仕方ない。寝返りのたびに手で払いのけ、無意識に外してしまい1カ月で治療を断念しました」

 2度目の治療となった田中さんが叩いた門は耳鼻科でなく、歯科医院だった。

「友人から診断が早くて、CPAPのようなうっとうしさがないと聞いたからです。実際、前回は精密検査のため入院させられましたが、今回は機械を渡され、自宅で計測。そのデータを基に診断していただいたのでラクでした」(田中さん)

 睡眠時無呼吸症候群とは、大まかにいうと10秒間の呼吸停止が1時間で5回以上ある場合をいい、5~15回が軽症、15~30回が中等症、30回超が重症とされている。田中さんは中等症だった。

 これを診断するための代表的な睡眠検査方法は終夜睡眠ポリグラフィー。心電図や呼吸用センサーなどを全身20カ所以上に装着して行う。「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長が言う。

「呼吸の状態など、とても正確な情報が得られますが、時間がかかり、面倒です。他にも簡易な検査装置がありますが、睡眠の深さなど精密な検査結果を得るのは難しい。しかし、最近日本で発売された“ウォッチパット”という携帯型検査機器は驚くべき性能があります。例えば、あおむけ、横向き、うつぶせの姿勢で寝ていた時間がいつで、そのとき無呼吸だったかどうか、血中酸素濃度がいくらかなどもチェックしてくれます。そのデータがあれば、睡眠時の姿勢を制御する方法を指導するだけで無呼吸から脱出できる場合もあるのです」

 この装置の本体価格はおよそ80万円。それを1回1万5000円前後で貸し出す歯科医院も増えているという。

■音に煩わされず、持ち運び簡単

 しかも、最近の歯科医が治療に使うのは睡眠中に自由な姿勢が取れる医療用マウスピース。CPAPのように音に煩わされることもなく、簡単に持ち運びできる。

「従来の医療用マウスピースは上下顎一体型で口を開けることができませんでした。そのため、唾液が口の中にあふれたり、顎が固定されるなどして熟睡できなかったのです。ところが、米国で人気のソムノデントのように口が開く上下顎分離型が登場し、装着したまま水を飲んだり、話ができたり、咳やあくびができるなどグッと使いやすくなりました」(木村院長)

 ウォッチパットを使えば、その効果を患者自身が数値で実感できる。

 ちなみにソムノデントを作る費用は十数万円と安くはない。しかし、毎月5000円程度(保険適用で3割負担の場合)のレンタル料が必要なCPAPを長期間使うことを考えればトータルではお得だ。

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