薬に頼らないこころの健康法Q&A

飲酒を前提とした向精神薬はない

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 断酒すべき理由は、第1に、向精神薬をアルコールと併用した場合の安全性を保証できないという点。第2は、アルコールが徐波睡眠(深い睡眠)の量を減らし、結果として、うつからの回復に必要な睡眠の質を損なうという点です。

 斎藤さんの主治医は、お優しい方のようです。だから、お酒好きの斎藤さんに厳しいことをおっしゃらなかったのでしょう。でも、「飲むな」という薬剤師の意見の方が正しいのです。

 そもそも、毎日お酒を飲んでいる斎藤さんに、抗うつ薬は投与すべきではなかった。「クルマ乗るなら酒飲むな、クスリ飲むなら酒飲むな」です。

 車で帰ることがわかっている客に居酒屋の店主は酒を勧めてはいけないように、酒を飲むことがわかっている患者に医師は抗うつ薬を処方してはいけません。

 薬の前に酒を減らしましょう。薬は断酒に成功してからでいいでしょう。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。