薬に頼らないこころの健康法Q&A

飲酒を前提とした向精神薬はない

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 この点は、法的な根拠もあります。「保険医療機関及び保険医療養担当規則」の第20条2のホに、「栄養、安静、運動、職場転換その他療養上の注意を行うことにより、治療の効果を挙げることができると認められる場合は、これらに関し指導を行い、みだりに投薬をしてはならない」とされています。斎藤さんのケースは、酒を減らす、あるいはやめるよう指導することが「療養上の注意」に該当しますので、医師としてまずなすべきは、節酒・断酒の指導でしょう。

 医師の立場からすれば、「療養上の注意」は言い訳との闘いです。斎藤さんは、さすがに弁護士さんだけあって、「自己責任論」批判などの大層なご高説を掲げて自己弁護なさる。素晴らしい! 斎藤さんこそまさに「よき法律家」。しかし、医者からすれば「悪しき患者」であると申し上げては失礼でしょうか。ともあれ、ご立派な演説に費やすエネルギーを、どうかぜひともお酒を減らすご努力に向けていただきたく存じます。

 うつから回復して、抗うつ薬を飲む必要がなくなったあかつきには、日本国憲法第13条に規定された幸福追求権の一部をなすものとしての「アルコール享受権」を、どうか存分に行使していただきたく存じます。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。