介護の現場

入居者家族VSホーム

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「母の認知症が進んでいるような気がします。薬をちゃんと飲ませてくれているんですか!」

 関東圏にある特養老人ホームに入居している80代女性のAさん家族から、ホームの施設長がこう抗議された。

 要介護3のAさんが入居してきて約1年。入居時から認知症の症状があった。

 毎月1回、ホームが契約している病院の医師が往診し、くだんの入居者女性にも診察や医薬品(月額個人負担、平均1万円)が手渡しされていた。

 毎月の入居費用総額は約9万円。Aさんは国民年金の受給者(約6万円)で、不足分は家族が補足していた。同ホームの職員が言う。

「Aさんの息子さんは2カ月に1回ぐらいの割合で訪ねてくるのですが、とにかくうるさいのです。薬にしても、医師のアドバイス通り毎日、食後にAさんに飲ませており、薬を飲ませないことなどありません」

 実際、Aさんは認知症が少しずつ進行していて、最近、他の入居者との間でこんなトラブルがあった。

 共同部屋で、隣のベッドで寝ている同年代の女性にいきなり、「あなたが着ている服は私の物よ。今すぐ脱いで返してくれ」と言いだし、その女性の袖を引っ張って、もみ合いになった。

 間に入った職員は、「Aさん、違います。これはBさんの洋服ですよ」と説得したが、Aさんは頑として応じない。職員は、洋服を強引に要求されている女性の耳元で「ごめんなさい。Aさんに渡してあげてくれませんか。忘れた頃にお返ししますから」と協力を仰ぎ、一件落着したという。

 こうした認知症の進行を、Aさんの家族はホームにも責任があるような口ぶりなのである。

 他にも、Aさんの家族は、「部屋が臭う。きれいに掃除をしているのか」などと苦情をまくしたてた。

 排泄がうまくいかないAさんは、時々ベッドのシーツを汚す。もちろん職員はシーツを交換し、部屋に消臭剤をまくが、どうしても臭いが残ってしまう。

 同ホームの施設長は言う。

「最近、神奈川県川崎市の老人ホームで起こった、入居者3人の短期間の事故死が社会の話題を集めました。これは考えられない事態です。入居者が廊下でつまずいてちょっと擦り傷を作った程度でも、家族に報告し、所轄の役所に報告書と、改善策を提示しなければなりません。まして事故死が3人も出るなど考えられません。また、私たちは懸命に介護していますが、その介護をめぐって家族とホームが対立するようなトラブルも少なくなく、頭の痛いところです」

 深夜、入居者からベルで起こされて、排泄の手伝いや紙オムツの交換。また、入居者同士のトラブルを善処するために説得しても、全く理解できない幼児のような入居者も少なくない。

「これが毎日です。私たちにも感情があり、手荒なまねはしませんが、大声を出したくなることもあります。でも、じっと耐えて介護につとめているのです。このあたりも、ご家族の人に理解いただけたらうれしいですね」(施設長)