どうなる! 日本の医療

重粒子線治療にコストを上回るメリットがあるのか?

「陽子線」「重粒子線」による粒子線治療は一部のがん治療に関して、既存のエックス線治療などと比べて優位性がないのではないか――。日本放射線腫瘍学会が、求められている優位性を示すデータを厚労省に提出できなかったことで、医療関係者の間から疑問の声が上がっている。

 今回は、その問題に関連して、粒子線治療施設の建設費や維持管理コストについて考えてみたい。

 粒子線治療施設は全国に14カ所ある。その草分けが重粒子線治療を行う「国立研究開発法人 放射線医学総合研究所(千葉県・通称放医研)」だ。放射線治療医が言う。

「重粒子線治療には、炭素イオン、重粒子をシンクロトロン(加速器)で加速するのにサッカー場ほどの広大な敷地が必要です。そのため、放医研では13.5万平方メートルの敷地に総額300億円近くを投じて、延べ面積10万平方メートルの新施設を造りました。この施設には年間億単位の電気料金がかかっています」

 その額はいくらなのか? 放医研の2013年の財務諸表によると、研究業務用水道光熱費は15億9996万円。それとは別に、通常施設の水道光熱費が一般管理費として1450万円計上されている。

「ただし、研究業務用水道光熱費には夜間の共同研究や、がん治療以外の研究に関わるものが含まれていて、重粒子線によるがん治療に関わる施設の電気代は9億2500万円(14年度)です」(放医研関係者)

 13年度の放医研の重粒子線治療の登録患者数は888人。単純計算で1人当たり104万円もの電気代がかかったことになる。

 むろん、放医研は「放射線の医学的利用のための研究」と「被曝医療研究」を行う研究施設。純粋に治療だけを行う施設と同列に考えるわけにはいかない。治療に重きを置いた施設ならば、建設コスト、電気代等の維持費も安くなる。しかも、重粒子治療機器を手掛ける重電メーカーなども研究を重ねて、大幅なコストダウンをしている。

 実際、建設費・維持コストの安い新施設はすでに群馬大などに導入され、19年に治療開始を目指す山形大学医学部付属病院でも建設中だ。

「山形大学付属病院の新型重粒子線がん治療装置は、従来装置よりコンパクトで敷地もコストも従来の3分の1といわれます」(放射線機器関係者)

 それでも、山形の治療施設導入には約150億円かかるという。そのため同病院は国や県、市の資金援助、自らも資金調達しているが、それでも110億円前後しか集まらず、残りは個人や企業献金を募っている。

 そんな中、患者数が最も多く、施設運営の要ともなる前立腺がんに対する治療効果が、従来のエックス線治療などと大差ないとなれば、大問題だ。コストを上回るメリットがなければ、280万円を自己負担して治療する患者数が頭打ちになることは避けられない。

「それだけに粒子線治療関係者らは、今回の学会報告がどの程度のものか実態解明に躍起となっているのです」(前出の放射線治療医)

 その影響をモロにかぶるのは装置と建設費で約118億円を投資、全国5番目となる神奈川県の重粒子線治療施設「iROCK」だ。今年末の治療開始予定はどうなるのか。