天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心房細動は感知できる病気


 今年の1月に心房細動と診断され、現在、抗不整脈薬による治療を行っています。このままずっと投薬治療を続けなければならないのでしょうか? 心房細動を完治させる治療法はありますか?(61歳・男性)


 これまでたびたび取り上げてきましたが、心房細動は不整脈の中でも多くみられる病気です。心臓が細かく不規則に収縮を繰り返し、動悸や息切れなどの症状が出ます。

 長期間続くと心機能低下に伴って心臓内で血栓ができやすくなり、それが脳に飛んで脳梗塞を引き起こすこともあるので注意が必要です。

 しかし、他に持病がなければ、脳梗塞の予防以外の点では心拍数の管理を気にするだけで、日常生活でそれほど心配する必要はありません。そのため、まずは心房細動や脈拍数を抑える抗不整脈薬や、血栓ができないようにする抗凝固薬による投薬治療が行われます。

 ただ、中には催不整脈性といって、高濃度使用により危険な不整脈発生の副作用がある薬もありますし、投薬であまり効果がみられない場合は、「カテーテルアブレーション」(カテーテル焼灼術)という治療法を検討してみるのもいいでしょう。太ももや肘からカテーテルを挿入し、不整脈の原因となっている部分に高周波の電気を流して焼き切る方法です。

 循環器内科医によって実施され、この治療の経験を積んだ医師が行えば、結果として成功率は9割くらいといわれています。治療が成功して完治すれば、その後は長期間にわたって薬を飲み続ける必要がなくなるケースもあります。

 かつては、心房細動を起こす原因になっている部分を特定しにくかったため、カテーテルアブレーションの効果は疑問視されていました。しかし、現在は、異常を起こしている部分を探し当てる「マッピング」の精度が上がっているため、原因になっている部分をしっかり探して治療することが可能になりました。それだけ、成果が期待できるようになったのです。

 10年前から心房細動を患っていた知人も、カテーテルアブレーションを受けて完治し、とても喜んでいました。1回目のカテーテルアブレーションで効果がなくても、2回目、3回目の実施で効果が確実になる患者さんもたくさんいます。近い将来には、血栓防止の治療も同時に行うことで脳梗塞の不安解消効果が格段に高まり、心房細動は完治する可能性が比較的高い病気に変わると考えていいでしょう。

 ただし、カテーテルアブレーションは、治療時の出血以外に術後に合併症を起こすリスクがゼロではありません。いちばん厄介なのが「房室ブロック」という合併症です。心房と心室の間にある正常伝導路を傷つけてしまった場合に発生し、重篤な場合はペースメーカーを埋め込む治療が必要になります。

 投薬治療だけで問題ない状態をずっと維持できている患者さんはたくさんいます。しかし、薬の副作用などに不安を感じ、ずっと悩み続けるくらいなら、そうした合併症のリスクを受け入れて、積極的にカテーテルアブレーションを行うことを考えた方がいいかもしれません。

 カテーテルアブレーションを受ける場合、心房細動が慢性化してから2年以内に行うのが大まかな目安です。

 心臓はすべて筋肉でできています。心房細動になると、規則正しい収縮を維持する筋肉を使わなくなってしまうので、筋肉がどんどん衰えてしまいます。

 それによって本来備わっている心臓自体のペースメーカー機能(洞機能)が悪化し、ペースメーカーの埋め込みが必要になってしまうのです。

 カテーテルアブレーションを希望する患者さんは、洞機能が悪化する前に担当医に相談してください。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。