天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

バイパス手術は長持ちする血管を使う


 激しい胸痛や動悸の症状が出て検査を受けたところ、虚血性心疾患と診断されました。左冠動脈が2本、右冠動脈が1本、計3本が詰まっているとのことです。どのような治療がベストでしょうか。(64歳・男性)


 心臓に栄養や酸素を供給している冠動脈が2本以上詰まっている多枝病変の場合は、「冠動脈バイパス手術」が第1選択になるというお話を前回しました。

 冠動脈バイパス手術は、詰まったり狭くなっている冠動脈に別の血管をつなぎ、血液がしっかり流れるようにバイパスをつくる手術です。その際、まずは心臓を動かしたまま行う「オフポンプ手術」を選択したほうが回復が早いということは前回説明した通りです。

 もうひとつの重要なポイントは、「長持ちする血管をバイパスとして使う」ことです。

 バイパスには、患者さん自身の血管を採取して使用します。内胸動脈(胸板の裏にある動脈)、右胃大網動脈(胃の周囲の動脈)、橈骨動脈(手の動脈)、大伏在静脈(足の静脈)、下腹壁動脈(腹部の壁の動脈)などが使用され、どの血管を使うかはバイパスの本数、患者さんの状態などによって変わります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。