天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

冠動脈が3本詰まっていたらバイパス手術が第1選択


 激しい胸痛や動悸の症状が出て検査を受けたところ、「虚血性心疾患」と診断されました。左冠動脈が2本、右冠動脈が1本、計3本が詰まっているとのことです。どのような治療がベストでしょうか。(64歳・男性)


 狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の血流再開治療には、内科医が行う「カテーテル治療」と、外科医が行う「冠動脈バイパス手術」があります。日本では、まずカテーテル治療が優先され、病状がギリギリの段階になるまで続けられることが少なくありません。ただ、質問をいただいた男性は、冠動脈が3本詰まっている3枝病変なので、冠動脈バイパス手術をおすすめします。

 冠動脈は、心筋に酸素や栄養を送る重要な血管で、大動脈から左右の心房に向かって出た2本の血管が細かく枝分かれし、心臓の表面を這うように走っています。詰まっている冠動脈の本数や分布によって選択される治療法が変わり、1本ならカテーテル治療、2本では詰まっている部位によって選択が分かれ、3本の場合は冠動脈バイパス手術の方が治療効果や遠隔成績(長期予後)が良いというデータが出ています。

 欧州で行われてきた大規模な診療実績試験「シンタックス試験」でも、それはハッキリしているので、3枝病変の患者さんは冠動脈バイパス手術が第1選択だと考えてください。

 冠動脈バイパス手術は、患者さん自身の他の場所の血管(グラフト)を使ってバイパス血管をつくることで、狭くなったり詰まっている血管を通らなくても、心筋への十分な血流を確保できるようにする手術です。

 この手術を受ける際には、2つの重要なポイントがあります。「オフポンプ手術を行っているか」と「長持ちする血管をバイパス血管として使ってくれるか」です。

 まずは、心臓を動かしたまま行う「オフポンプ手術」を選択するようにしてください。従来の心臓手術は、血管を人工心肺装置につなぎ、心臓を止めて行うのが一般的でした。しかし、心臓の拍動を止めている時間が長ければ長いほど、患者さんは強いダメージを受けます。それが心臓を止めずに手術を行うと、患者さんの負担が大きく軽減されて術後の回復も早くなるというデータが出ているのです。

 現在、日本で行われている心臓手術の3分の2はオフポンプ手術だといわれています。これは世界的にも高水準で、日本はオフポンプ手術の先進国といえます。ただ、一口にオフポンプ手術を行っているといっても、施設によってクオリティーに差があるのが現状です。

 心臓を動かしたまま行う手術なので、よりスピードと正確性が求められます。拍動している心臓の血管にバイパスとなる血管を縫い合わせるときは、非常に高い集中力が必要です。そのため、やたらと手術時間がかかったり、急ぐあまり処置がいい加減になっているケースもあります。

 しっかりしたオフポンプ手術を実施している施設を選ぶには、病院のホームページをチェックしてください。オフポンプ手術を得意としている施設は、積極的にオフポンプ手術を実施していることや、治療実績を公開しているケースが多いといえます。

 また、自分と同じ病気の手術総数やオフポンプ手術の割合なども確認しましょう。経験値が高い病院なら、それだけ高規格のオフポンプ手術を行っているだろうと判断できます。

 次回は、冠動脈バイパス手術を受けるにあたって重要な2つ目のポイント、「長持ちする血管をバイパスに使うこと」について説明します。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。