天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

出血繰り返す合併症があると手術は難しい

 高血糖によって網膜の血管が詰まったり変形するなどして血液が流れにくくなると、それをカバーするために新生血管が作られます。病状の進行とともに、その新生血管は網膜や硝子体に向かって伸びていきますが、非常にもろく、破れて出血しやすいので、硝子体に出血することがあります。こうした網膜症の増殖期の患者さんや、硝子体出血を繰り返しているような場合は、やはり手術は様子を見たほうが賢明です。

 かつて、同じように網膜に出血を起こしていて、心臓手術が優先される段階に入っている患者さんを手術したことがあります。そのときも、まずは網膜の出血が進行しないようレーザー凝固治療を行い、同時に薬剤で血糖状態をコントロールし、6カ月以上再発していないことを確認したうえで手術を行いました。

 ヘパリンの投与によって出血しやすくなっている状態を少しでも短くするため、短時間で手術を終わらせるアプローチも必要でした。出血を繰り返しているような合併症がある患者さんの手術は、それだけ注意が必要になるのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。