天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

出血繰り返す合併症があると手術は難しい

 先週取り上げた慢性硬膜下血腫のように、脳血管の出血を伴う病気を抱えている患者さんの手術も慎重に臨まなければなりません。以前、海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻という病気を合併している心房細動の患者さんを診た経験があります。

 海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻とは、脳の大きな静脈に動脈が直接流れ込んで起こる病気で、脳の周囲が腫れたり、出血を起こすケースがあります。その患者さんは、心房細動の治療で血液をサラサラにする抗凝固剤を飲んでいましたが、薬を服用していると硬膜下に血液が染み出してたまり、止めると血液が吸収されてなくなるという状態を繰り返していました。

 その状態を回避するため、抗凝固剤を飲まなくて済むように心房細動を治すメイズ手術が検討されたのですが、結局、手術はしませんでした。それまで服用していた抗凝固剤よりも効果の発現が早く、効きすぎによる出血のリスクも低い薬を使うことになったのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。