天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

脳に障害与えるリスク負ってまで手術する必要はない

 そのため、頭の中に血液がたまっている状態で手術を行えば、大出血を起こして脳に障害を与えるリスクが出てきます。術後にも、ちょっと頭をぶつけただけでも出血しやすい状況も起こりえますし、そうなったときにいまの血腫がどんな状態になるのか予想できません。

 やはり、いまは心臓手術を避け、まずは硬膜下血腫の状態が安定するのを待つのが最優先です。頭部CT検査などで、たまっている血液の量が変わらないまま安定しているといった状態が確認できるまでは、心臓のほうは丁寧に経過観察して様子をみることをおすすめします。

 そもそも大動脈弁閉鎖不全は、狭窄と違って突然死を招くような病気ではありません。また、質問をいただいた男性は、拡張期(最低)血圧が50mmHg前後ということですから、まだ完全な手術適応ゾーンに入っている状態ではないといえます。大動脈弁閉鎖不全は、「拡張期血圧が50前後で、頻繁に心不全を起こすようなら手術を考えた方がいい」とされています。頻繁に心不全を起こすのは、拡張期血圧が30~40、あるいは0まで下がってしまうようなもっと低いケースです。質問をいただいた男性は、すぐに手術しなければならない時期ではないと考えていいでしょう。

2 / 3 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。