天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

性生活は相手と場所に注意

 性交中に突然死するいわゆる“腹上死”は、心血管系のトラブルが原因であるケースがほとんどで、「相手」と「場所」が普段と違っていたというパターンが多く見られます。いつもとは違う環境による興奮状態が呼吸を乱したり、血圧を上げ、心臓に大きな負荷がかかってしまうのです。

 繰り返しますが、心臓にトラブルを抱えていたり、発作を起こして手術を受けたことがある人は、日常生活で自覚症状がなければ、あくまで「相手と場所が一定の性生活に関しては不安に思う必要はない」という結論になります。

 質問者の男性は46歳で、かつて手術を受けたということなので、基礎疾患としての糖尿病や高血圧、高脂血症があれば、それらに対しての投薬治療はしっかり継続したうえで、性生活も前向きに取り入れることをお勧めします。

 逆に、ドクターストップがかかっている人はもちろん、収縮期(最高)血圧が180㎜Hg以上の人、心筋梗塞や狭心症を治療中の人は、発作を起こす恐れがあるので性生活は控えた方がいいでしょう。発作を抑えるニトログリセリンなどの硝酸薬を使うと症状の改善が顕著な人や、性交中や性交後に息苦しくなったり、ひどいセキが出たりする人にも、性行為は負担が大き過ぎるといえます。

 ちなみに、ED治療薬として知られるバイアグラは、硝酸薬と併用することができません。一緒に服用すると血圧が急激に低下し、危険な状態を招いてしまいます。極端な血圧低下はそのまま突然死に直結するので、注意が必要です。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。