天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

段階を踏んだ治療で見落としをなくす


 2年前から心房細動の治療を受けています。これまで、カテーテルアブレーションによる治療と、カウンターショックを2度行い、現在は投薬治療を続けています。このまま同じ治療を継続するだけでいいのでしょうか?(65歳・女性)


 心房細動は不整脈の中でも多い病気で、米国では年間20万~30万人、日本でも年間数万人ペースで増えているとみられます。心臓の上の部分にある心房の収縮が極端に速くなる病気で、心臓が細かく不規則に1分間に250回以上も収縮を繰り返します。1週間以内に復元するようなら一過性心房細動、1週間を超えて続くと慢性心房細動と呼ばれます。

 他に心臓病がなければ、それほど心配する必要はありませんが、心房細動が長期間続くと心臓内で血栓ができやすくなり、それが脳に飛んで脳梗塞を引き起こすケースがあります。そのため、まずは血栓ができないようにする抗凝固薬や、心房細動を抑える抗不整脈薬を飲む投薬治療が行われます。

 投薬の他には、カテーテルアブレーション(カテーテル焼灼術)という治療法があります。太ももや肘からカテーテルを挿入し、不整脈の原因となっている部分に高周波の電気を流して焼き切る方法です。この治療に慣れている医師が行えば、成功率は90%以上といわれています。

 また、投薬で心房細動が治まらない場合は、カウンターショック(電気的除細動)という治療も行われます。心臓に直接電気刺激を加えて心房細動を停止させる方法です。この治療は、心臓のもともとのペースメーカー機能がキチンと働くかどうかを確認するための診断的治療でもあります。カウンターショックをかけても自分の脈拍がしっかり出てこない患者さんは「洞不全症候群」と診断され、次の段階であるペースメーカーを埋め込む治療の対象になってきます。

 ご質問にあるように、カテーテルアブレーションやカウンターショックを何度も時間をかけて丁寧に行っているのは、見落としがないようにするためです。しっかりと手順を踏んだ誠実な治療をしているといえます。そうした病院なら、患者さんも安心して治療を受けられます。担当医が下した「投薬治療を続ける」という判断も信頼していいでしょう。

 反対に、信頼できない病院や医師による投薬治療には注意してください。薬によって、逆に致死性の危険な不整脈を引き起こしてしまうケースがあるからです。

 抗不整脈薬というのは、量や種類、患者さんの状態によって、その効果と副作用に大きく影響します。その患者さんにその薬が合うか合わないかもありますし、たとえば患者さんの腎機能が悪化していれば、排泄が悪くなって薬の成分が高濃度になり、むしろ不整脈を起こしやすくなってしまう場合さえあるのです。

 その患者さんは致死性の不整脈が出やすい状態なのか。どれぐらいの量の薬を処方すればいいのか。こうした判断は医師の経験によって左右されます。不整脈と薬について詳しく勉強している医師が、しっかり患者さんを診て、検査して、最適な治療を探っていかなければなりません。

 近年は最適な治療を探る過程で、カウンターショックやカテーテルといった検査や治療が増えてきています。そうした方法は患者さんに負担を強いることになりますが、その分、治療効果のアップにつながっているのです。

 つまり、段階を踏んだ検査や治療を丁寧に行っている病院や医師は、投薬治療にもしっかり注意を払っているといえます。「処方された薬を飲み始めたら不整脈が出なくなった」という場合、信頼できる医師だと判断してもいいでしょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。