天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

具体的なリスクのデータをしっかり確認


 狭心症で冠動脈バイパス手術を勧められていますが、正直、不安です。手術を受ける前に医師や病院側にはどんなことを聞いておくべきでしょうか?(66歳・男性)


 心臓手術の多くは、事前にしっかり診断したうえで計画的に行われる予定手術です。その際、治療の詳しい内容、期待される結果や予後について医師が適切な説明を行い、患者さんに納得してもらったうえで手術をする「インフォームドコンセント」は欠かせません。

 患者さんが担当医師を「信頼できる」と思えるかどうかは重要ですし、医師のほうも患者さんやご家族に十分に納得してもらえれば、スムーズに手術に入れます。医師との信頼関係を築くためにも、不安な点があれば遠慮なくしっかりたずねてください。

 まずは、「その手術は具体的にどれくらいのリスクがあるのか」を確認しましょう。いまは1万~10万例ほどの患者を対象にした「ジャパンスコア」や「ユーロスコア」といったリスク解析モデルがあるので、ハッキリした数字がわかります。

 逆に、そうしたデータが出てこない医師や医療機関は、日頃から勉強していないということです。信頼のおけるメガデータを常に意識していないところは、その施設内でしか通用しないような独り善がりの治療しかしていない可能性が高いと考えられます。

 これまでの症例数、年間症例数、術後の合併症やその頻度について確認しておくことも安心して手術を受けるうえで大切です。

 直接たずねにくければ、病院のホームページを確認しましょう。情報開示している病院ほど医療安全面も含めて安心できます。

 さらに、病状に余裕があれば、セカンドオピニオンを受けることをお勧めします。担当医に「先生が勧める医療機関でもう一度、話を聞いてみたいのですが、お願いできますか?」とたずねてみて、病状の経過や治療方針などが書かれた診療情報提供書、検査結果などの情報を提供してもらってください。中には、患者さんが他の病院にいくことを嫌がるところもありますが、そうした病院では、安心して手術を任せられないと判断していいでしょう。

 参考までに、私が患者さんに手術の説明をするときは、手術チームのメンバーとしてスタッフ数人が同席します。リーダーである私が患者さんに直接説明することで、メンバーの目標がはっきり定まるからです。

 患者さんには、具体的にどんな手術をするのか、リスクはどれくらいあるのか、事前の診察から考えられる手術の予測と収束のパターンなどを説明します。

 また、再手術の場合は「前の手術水準といまの水準の違い」「前の手術で結果的に問題点として残ったこと」「事前の診断でわからなかったことが起こる可能性」「事前の診断通りだったが、手術中に予測し得なかったことが起こる可能性」についてもお話しします。それだけ、患者さんに十分に理解し、納得してもらうことが大切なのです。

 他には、医療費について確認しておくことも重要です。医療費の助成や健康保険以外のサポートなど、その病院ではどのような対応をしてもらえるかを聞いてください。その際、自分が加入している生命保険や医療保険でどれだけカバーできるかを事前に把握しておきましょう。日本では、医療機関の言いなりのまま手術が終わったあとに請求がくるケースが多いのですが、ざっくりでも構わないので事前に把握しておくほうが、患者さんもご家族も不安が少なくなります。

 また、高齢者の場合はパートナーが生活の面倒を見ながら治療を受けなければいけないケースもあります。その病院や関連の医療機関が、患者の生活面の相談窓口のような受け皿を持っているかどうか。どんな対応をしてもらえるのか。こうしたところまで確認しておけば、大きな安心材料になります。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。