天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

インドではエコノミークラス症候群の手術が普及

 今年の2月、3泊5日の行程でインドにある病院の視察に行ってきました。日本の企業も含め、世界のIT企業が多く進出しているバンガロールを訪れ、低所得者向けの病院と富裕層向けの病院の両方を見てきました。

 これからの日本の医療にとって大きなヒントになることをいくつも発見できましたが、今回は、日本ではあまり行われていない「慢性肺動脈塞栓症」の手術について紹介します。エコノミークラス症候群(急性肺動脈塞栓症)が慢性化して、軽い運動でも酸欠症を来す疾患です。

 肺動脈は心臓の右心室から肺へ血液を送り出す動脈です。肺動脈塞栓症は、長時間、同じ姿勢を続けることで足や下腹部の静脈の血行が悪くなって血栓がつくられ(深部静脈血栓症)、その血栓が血流によって肺まで到達し、肺動脈の太い部分を塞いでしまうことで起こります。肺動脈が詰まると肺胞への血流が悪くなってガス交換ができなくなるために呼吸困難などを引き起こし、最悪の場合は命を落とすこともあります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。