天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「スーチャーレス弁」で安全な手術ができる

 これまでの手術では、ガチガチに硬くなった弁をハサミで丁寧に切り取り、弁があった箇所の石灰化した部分を削って取り除いた後、人工弁を留置して糸を何本もかけて縫合していました。人工心肺を使って心臓を止めている時間は、およそ50~60分ほどかかります。

 それがスーチャーレス弁を使えば、人工心肺を動かしている時間も手術全体の時間も半分に短縮できるのです。そのうえ、それが適合する人に関してはピタッとフィットして、弁の周辺からの血液の漏れも少ない。

 縫合する必要がないので、誰が行っても同じ時間しかかかりません。外科医の技量もそれほど問われなくなり、安全性も高まります。

 TAVIと違って、胸を切開して実際に心臓を見て処置するので、予期せぬトラブルが起こっても制御可能です。その分、安全性や合併症の発生率はTAVIよりも低い可能性もあります。現時点ではTAVIの適応から除外されている透析患者さんですが、より安全に手術を受けられるようになるのです。

3 / 4 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。