先週に引き続き、感染症対策のお話をしましょう。手術後の傷口に起こる感染症は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)によるものがほとんどで、患者さんの命を奪ってしまうケースもあります。
現在、私が勤めている順天堂大学病院で、そうした感染症をほぼなくすことができているのは、「創傷治癒」=「傷を治す」という外科医の原点に立ち返ったことがベースになっています。「傷口を隙間なく正確に縫合する」という仕上げの正確さを追求し、さらに創傷治癒を追い求めた結果、術後に傷口周辺の皮膚の皮下層にドレーン(誘導管)を入れて吸引をかけ、傷が治るメカニズムを促進させる処置にたどり着きました。
それまで、心臓外科医の間では「手術による傷はそもそも無菌の状態だから、ドレーンなんか入れる必要はない。むしろ、MRSAを持ち込んでしまうリスクがある」という意見がほとんどでした。しかし、そうした“妄信”にとらわれなかったことが大きな成果につながりました。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」