天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

1年以内の再手術が多い病院は危険

 創傷治癒を促進させる「VAC療法」と呼ばれる治療法があります。初期の創部感染(SSI)を起こした患者さんの傷口周辺に被覆材とフィルムを当てて密閉し、ドレーンを挿入して吸引ポンプで陰圧をかける治療法で、画期的な効果が報告されています。

 さまざまな感染症対策を試行錯誤しているとき、「感染を起こした患者さんに効果があるなら、感染を起こしていない段階で行えば、さらに効果的なのではないか?」とひらめいたのです。これが、素晴らしい結果を生んでくれました。

 こうした対策を積極的に導入できたのは、感染症対策の専門家が早い段階から順天堂大学病院にいたことも大きかった。かつて感染症で2人の患者さんを失い、3人目もすんでのところで……という苦い経験をしたころ、文科省の「21世紀COEプログラム」という研究プロジェクトが進められていて、順天堂大学大学院は病院感染予防のための研究拠点として選ばれました。すぐに対策チームが立ち上がり、手術を行うわれわれも専門家にアドバイスをもらいながら感染症対策のレベルアップを図ることができたのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。