医学の発展によって抗生物質が進化した現在でも、「感染症対策」は欠かせません。手術自体がまったく問題なく終わっても、細菌に感染するとさまざまな合併症を引き起こし、命を失ってしまうケースが少なからず存在するからです。とりわけ心臓外科では、処置した傷がしっかり治るまでの感染対策が極めて重要です。
専門家に話を聞くと、傷口での院内感染を引き起こす原因の100%近くが「MRSA」と呼ばれるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌だといいます。MRSAは通常の抗生物質が効かないので、感染すれば確実に創部感染(SSI)に拡大して、閉じたはずの傷口がパカッと開いてしまいます。そうなると、敗血症を起こして3分の1が亡くなってしまうほど深刻な感染症です。
MRSAは患者がもともと保菌している場合もあれば、外科医の手から侵入するケースもあります。手袋をはめて手術しているのだから、細菌は侵入しないだろうと思うかもしれませんが、手術で切った骨を触っているうち手袋に穴が開き、そこから細菌が落下することもあるのです。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」