天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

仕上げの正確さが危険な感染症を防止

 医学の発展によって抗生物質が進化した現在でも、「感染症対策」は欠かせません。手術自体がまったく問題なく終わっても、細菌に感染するとさまざまな合併症を引き起こし、命を失ってしまうケースが少なからず存在するからです。とりわけ心臓外科では、処置した傷がしっかり治るまでの感染対策が極めて重要です。

 専門家に話を聞くと、傷口での院内感染を引き起こす原因の100%近くが「MRSA」と呼ばれるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌だといいます。MRSAは通常の抗生物質が効かないので、感染すれば確実に創部感染(SSI)に拡大して、閉じたはずの傷口がパカッと開いてしまいます。そうなると、敗血症を起こして3分の1が亡くなってしまうほど深刻な感染症です。

 MRSAは患者がもともと保菌している場合もあれば、外科医の手から侵入するケースもあります。手袋をはめて手術しているのだから、細菌は侵入しないだろうと思うかもしれませんが、手術で切った骨を触っているうち手袋に穴が開き、そこから細菌が落下することもあるのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。