天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

仕上げの正確さが危険な感染症を防止

 私にも、かつて感染症で2人の患者さんを失った苦い経験があります。いまの順天堂大に着任した直後の02年、術後の傷の治りが悪くて苦労している患者さんがいました。私が着任する前に手術を受けていた患者さんで、担当医も原因が分からず首をかしげていました。後になって判明したことですが、実はその患者さんはMRSAに感染していたのです。

 そうとは知らなかった担当医にも感染。それが分かるまでの間、比較的簡単な手術を任せたり、助手を務めてもらっていたため、その担当医が携わった3人の患者さんも感染してしまいました。

 最初の患者さんはアッという間に、2人目の患者さんはリハビリを開始する段階まで回復していたのに亡くなられました。最後のひとりはギリギリで食い止めることができましたが、われわれスタッフの間に大きなショックが広がりました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。