以前、棋士の羽生善治さんの著書「捨てる力」を読んで、プロフェッショナルとして尊敬する部分がたくさんありました。昨年の8月には対談する機会もあり、大いに共感しました。
中でも、考えさせられたのが羽生さんの考え方の背景にある「敗北をどうプラスに変えていくか」という部分です。
羽生さんほどの棋士でも勝率は7割3分で、4回に1回は負けています。常に「負けた勝負」と向き合い、失敗を分析し、肝心なところ以外は忘れることで、合理的に乗り越えていく。敗北から学ぶ経験を繰り返しながら、「次」を築いているのだと感じました。
その点、われわれ外科医は敗北が許されません。敗北=死につながるからです。そのため、敗北から学ぶのではなく、「勝利=成功体験」の積み重ねから検証します。手術をした患者さんが、その後どう回復して、どんな時間を過ごしているのか。傷はきれいに治っているか……。そうした「勝ち方」にこだわり続けていかなければなりません。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」