天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

勝ち方にこだわる外科医が次代の医療を作る

 以前、棋士の羽生善治さんの著書「捨てる力」を読んで、プロフェッショナルとして尊敬する部分がたくさんありました。昨年の8月には対談する機会もあり、大いに共感しました。

 中でも、考えさせられたのが羽生さんの考え方の背景にある「敗北をどうプラスに変えていくか」という部分です。

 羽生さんほどの棋士でも勝率は7割3分で、4回に1回は負けています。常に「負けた勝負」と向き合い、失敗を分析し、肝心なところ以外は忘れることで、合理的に乗り越えていく。敗北から学ぶ経験を繰り返しながら、「次」を築いているのだと感じました。

 その点、われわれ外科医は敗北が許されません。敗北=死につながるからです。そのため、敗北から学ぶのではなく、「勝利=成功体験」の積み重ねから検証します。手術をした患者さんが、その後どう回復して、どんな時間を過ごしているのか。傷はきれいに治っているか……。そうした「勝ち方」にこだわり続けていかなければなりません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。