天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

勝ち方にこだわる外科医が次代の医療を作る

 だから、「まあ、これぐらいでいいだろう」「もう十分満足だ」などと思ってしまった外科医は、そこで終わってしまいます。成功体験を繰り返しながら、常にもっと上を目指す外科医が次の医療をつくっていくのです。

 もちろん、私にも敗北はあります。30年前に心臓外科医になって以来、これまで7000例近い手術を行い、いまも年間500件近く手術を執刀しますが、残念ながら、あってはならない予定手術での患者さんの死亡率は0・2%ほど。500回に1回程度は負けている計算です。手術自体の問題ではなく、脳梗塞などの合併症を起こして亡くなってしまうケースもあります。

 この1年でも、失った患者さんが2人いました。患者さんの負担を減らすために、私がモットーにしている「はやい、安い、うまい」のバランスが崩れてしまった。「はやい」だけに偏ってしまったり、「うまい」だけに向かってしまったとき、そうした失敗が起こってしまうことを痛感させられました。もし、同じ失敗を繰り返すようなことがあれば、その時は外科医を辞めようと考えています。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。