だから、「まあ、これぐらいでいいだろう」「もう十分満足だ」などと思ってしまった外科医は、そこで終わってしまいます。成功体験を繰り返しながら、常にもっと上を目指す外科医が次の医療をつくっていくのです。
もちろん、私にも敗北はあります。30年前に心臓外科医になって以来、これまで7000例近い手術を行い、いまも年間500件近く手術を執刀しますが、残念ながら、あってはならない予定手術での患者さんの死亡率は0・2%ほど。500回に1回程度は負けている計算です。手術自体の問題ではなく、脳梗塞などの合併症を起こして亡くなってしまうケースもあります。
この1年でも、失った患者さんが2人いました。患者さんの負担を減らすために、私がモットーにしている「はやい、安い、うまい」のバランスが崩れてしまった。「はやい」だけに偏ってしまったり、「うまい」だけに向かってしまったとき、そうした失敗が起こってしまうことを痛感させられました。もし、同じ失敗を繰り返すようなことがあれば、その時は外科医を辞めようと考えています。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」