天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

6つの危険信号を見逃してはいけない

 心臓病は早期に対処を行えば、元通りの生活を取り戻せる病気です。「ひょっとしたら……」と感じたら、早めに循環器内科を受診することをおすすめします。放置しておくと、突然、発作を起こして命に関わる恐れがあります。

 患者さんに聞いてみると、大きな発作が起こる前に、心臓から「危険信号」が出ているケースがほとんどです。その典型的な初期症状は、①胸痛②動悸や脈拍の異常③息切れや呼吸困難④むくみ⑤めまい⑥一時的な失神の6つです。

 思い当たる場合は、「少し様子を見てみよう」などと病院に行くことを先延ばしにしないようにしましょう。

 中でも注意が必要なのは、命の危険があり、最も多くみられる心筋梗塞や狭心症の“サイン”です。典型的な症状として、激しい胸痛が起こります。胸の付近が焼けるように痛んだり、握りつぶされるような痛みが出たり、左の肩や腕、あごやみぞおちに痛みを感じることもあります。

 普段とは違うなと思っているうちに意識を失って命を落とす場合もあるので、激しい胸の痛みを感じたら、迷わず救急車を呼んでください。強い痛みとともに吐き気やめまいを感じたり、冷や汗が出るケースもショック状態に陥りつつあるので危険な状態です。

 動悸や脈拍の異常は、不整脈の恐れがあります。心臓が“しゃっくり”する期外収縮から心室細動のように突然死を招く危険な不整脈になることもあるので、甘く見てはいけません。

 脈拍が不規則になったとき、急に激しい動悸を感じたり、突然の全身倦怠感が起こる場合には、心房細動などの病気が疑われます。放っておくと脳梗塞のリスクがあるので危険です。

 運動の直後に動悸を感じても、すぐに治まるようなら問題ありませんが、歩いたり階段を上っているときに激しい動悸と息苦しさを感じる場合は要注意です。心房細動のほかには心臓弁膜症の方に合併しやすく、その場合は心不全を起こしやすくなります。

 安静にしているのに息切れを感じたり、寝ているだけで呼吸が苦しくなり、前かがみに座って肩でやっと息をできる状態(起座呼吸)になる人も、心臓病の可能性が高いです。とりわけ、一度でも起座呼吸を経験したことがある人は、すぐに診察を受けてください。

 また、仮に自覚症状がなくても、糖尿病、高コレステロール、高血圧、肥満、喫煙といった冠動脈疾患の危険因子があり、若い頃とはちょっと違う息切れや、心臓に負担がかかっているように感じる人は循環器内科を受診した方がいいでしょう。

 胸部レントゲン検査、心電図検査、血液検査(BNP検査を含む)を行い、心臓超音波検査(心エコー)までやっておけば、たとえ自覚症状がない無症候性心筋虚血の患者さんだったとしても、早期治療によって突然死する確率を低くできます。

 普段から自分の心臓の状態を把握しておくことも重要です。まずは、朝起きてすぐ、もしくは座って5分間安静にしたあと、呼吸を整えてから脈拍を測りましょう。1分間に何回脈打つか(15秒間の回数を4倍してもよい)を数えます。成人の場合、安静時の脈拍は1分間に60~80回です。100回を超えていたり、50回を下回る場合は、循環器内科で診てもらってください。

 朝晩の血圧測定も大切です。週3回以上、「最高140mmHg/最低90mmHg」を超えているようなら、医師に相談しましょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。