天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

運動しない人の心臓は筋肉がペラペラ

 日頃から平地歩行のみで、ただ食事をして睡眠を取るといった生活をしている高齢女性は、だいたい1日2000~3000歩しか歩かないといわれています。そういう生活なら、心臓の筋肉が薄っぺらでも何とかなってしまうので、心臓の筋力はどんどん衰えてくるのです。そんな人が急にジョギングを始めたりすると、心臓のトラブルにつながります。心臓にとって、適度な運動がいかに大切かお分かりいただけたでしょうか。

 また、若い頃から長期間にわたって激しい運動を続けていた人も、注意が必要です。たとえば、アスリートが現役を引退するなどして突然、ほとんど運動しないような生活にシフトすると、心臓の筋肉が薄っぺらくなってきます。筋肉量が落ちて脂肪に変わってしまう「サルコペニア肥満」と同じようなことが心臓にも起こるのです。

 そうなると、不整脈疾患を起こしやすくなります。実際、アスリートの中には「心房細動」で困っている方がいて、私も相談を受けます。心臓が細かく不規則に1分間に250回以上も収縮を繰り返す不整脈の一種で、これが起こると血栓ができやすくなり、脳梗塞などのリスクがアップします。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。