天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

正当な手続きを踏まないカテーテル治療も行われている

 内科医が行うカテーテル治療は、胸にメスを入れずに済むので患者の負担が少なく、全体的な治療のレベルも上がってきています。手術と同じ治療効果なら、侵襲の少ない治療法が選ばれるべきでしょう。

 ただし、手術と比べると手軽に処置できる分、いくつか問題点もあります。近年、患者さんが“ウオークイン”でカテーテル治療を受けられる病院が目につくようになりました。病院内にカテーテル治療を行える部屋がいくつもあり、来院した患者さんは玄関からカテーテル室まで歩きながら、病院スタッフによる問診や説明を受けます。その過程である程度のリスクを判断した後、血液検査をして腎臓などに問題がなければ、そのまますぐにカテーテル治療を行う病院もあります。しかし、治療を行うまでにショートカットしている部分があるわけですから、その分だけ見落としリスクが増え、副次的な合併症を起こす可能性がアップすることも考えられます。

 また、本当にカテーテル治療が必要かどうかセカンドオピニオンが必要な患者さんに対し、安易に実施している病院があるのも事実です。心臓病患者の治療を選択する際、いちばん大事なのは「自覚症状」と「スクリーニング検査」です。

 たとえば、患者さんに胸痛や息切れといった症状があり、レントゲン、心電図、心エコーなどの検査をした結果、すでに心筋梗塞を起こしたような痕が見られる。症状や検査データもそれを裏付けているといったケースであれば、自覚症状が軽くてもカテーテル治療を急いで行った方がいいでしょう。

 しかし、検査の数値がノーマルの範囲なのに、少し胸が痛かったり息苦しいというだけで、すぐにカテーテル治療を実施するのは問題があると思います。このような患者さんの中には血圧コントロールだけで案外、ケロッと改善する人も多いからです。

 残念ながら、安易にカテーテル治療を施行する病院は全国に少なからず存在します。心臓や冠動脈の立体画像を驚くほど正確に映し出せる心臓3D―CTでは、65歳以上の高齢者になると、かなりの割合で冠動脈に石灰化による“狭窄まがい”の病変が浮き出してきます。その病変部を医師ではない放射線技師が「狭窄所見疑い」としてカテーテル治療の適応を判断し、それを受けた医師が「彼らの判断では……」などと診断治療を進める専門施設もあるほどです。

 患者さんにとって、何が適切な治療かを判断するには、医師の診断能力が重要です。正当な手続きが踏まれないままカテーテル治療が行われている場合、医師側が自分たちのやり方を患者さんに押しつけているか、病院の経営的な要素を疑わざるをえません。

 診察を受けている病院や医師に不安がある患者さんは、セカンドオピニオンを受けることをお勧めします。内科治療であるカテーテルをするべきか否かの判断は、別の循環器内科医の意見を聞くのがベストです。「他の病院でカテーテル治療を勧められたのですが、本当に必要ですか?」と聞いてみてください。

「カテーテル治療か、バイパス手術か」といったように、内科治療か外科治療かの選択で迷っている場合は、診断を受けた科とは別の科を受診するのがいいでしょう。たとえば、循環器内科で「カテーテル治療をやって、必要であればカテーテル以外の治療も考慮しています」と言われた場合は、心臓外科医を訪ねて「本当にカテーテル治療を受けなければいけないんでしょうか」と相談してください。

 心臓外科医も、診断から治療までの知識は持っています。私も患者さんから治療の相談を受け、「あなたの検査結果を見た限りでは、まだカテーテル治療をするまでの段階には至っていないと思います」といったアドバイスをしたことが何度もあります。

 悩んでいる患者さんに手を差し伸べてくれる医師はたくさんいます。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。