天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「まずはカテーテル治療」だけが正しい判断ではない

 狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の血流再開治療には、大きく分けて、内科医が行う「カテーテル治療」と、外科医が行う「冠動脈バイパス手術」があります。

 手術が必要かどうかの判断は、病気の進行度、患者さんの年齢、合併症の有無などによって異なりますが、実際は病院や医師によって違っているのが実情です。日本では、まずカテーテル治療が優先され、病状がギリギリの段階になるまで続けられることが少なくありません。

 手術はカテーテル治療に比べて高侵襲で患者さんの負担が大きいため、入院期間が長い。少ないながら合併症のリスクもあります。しかし、血行再建が確実で心筋虚血の改善が得やすく、一度にすべての病変を治療できる利点があります。思い切って手術した方が、安心して仕事や家庭に復帰できるケースもあるのです。

 最新の研究では、心臓に栄養や酸素を供給している3本の冠動脈のうち、2本以上が詰まっている多枝病変の場合は、手術の方が予後がいいというデータが出ています。

 もし冠動脈の1カ所だけが問題で、他の血管はキレイな状態なら、わざわざ手術をする必要はありません。まずカテーテル治療でステントを入れて血管を広げ、「再狭窄を起こしたらどうするか」の対策がしっかり取れていれば問題ないでしょう。

 詰まると心臓の大部分が虚血を起こしてしまう左主幹部(左冠動脈が左前下行枝と回旋枝に分かれる手前の部分)に狭窄がある患者さんも、手術が適しています。

 すでに何度も再狭窄を起こしていたり、事前に再狭窄を起こしやすいと判断できる患者さんも手術がいいでしょう。糖尿病で非常に血管が細くなっている患者さんなどは、最初から手術をした方が予後が良好だということが、大規模研究によってハッキリしています。

 カテーテル治療が適しているのか、手術した方がいいのかの判断は、病院や医師の経験と能力によって大きく左右されます。しかし、残念ながら日本はそうしたところの情報開示が不十分です。

 そのため、外科治療が比較的弱い地域の患者さんは、明らかに手術の方が適している場合でも、カテーテル治療が優先的に行われていることがあります。カテーテル治療を続けているうちに徐々に心臓の機能が落ちてきて、アップアップになって初めて都市部の大学病院を受診し、「なんでこれほど悪くなるまで……」というケースがたくさんあるのです。多くの患者さんは治療に対する知識がないので、医師がやりやすい治療に誘導されてしまっているという側面もあります。

 手術は基本的に1度しかできません。再手術をする場合、長い期間を空けないとリスクが高くなるからです。そのため、外科医は手術後まで考えて、「本当にこの患者さんにとって手術が正しい治療法なのか」ということを消去法であぶり出していきます。

 一方、内科医には「とにかくカテーテル治療をやってみて、先のことはそれから考えよう」といった発想をする医師もいます。ひどい病院になると、カテーテル治療でステントを入れた後、抗血小板剤を服用した患者さんにアレルギーが出て、「あれ、困ったな……」なんてトラブルを起こすこともある。

 医師の言いなりになるのではなく、患者側も心臓病の治療に関する知識をしっかり身につけることが、自分を守ることにつながるのです。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。