天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

カテーテル治療は「クスリ」に注意

 金属アレルギーがある人、抗凝固剤の服用が難しい既往がある人、糖尿病によって血管が細くなり再狭窄を起こしやすい人などに対しては、最初から外科医が冠動脈バイパス手術を行いますが、多くの場合、まずはカテーテル治療が選択されます。急性心筋梗塞を起こして救急搬送されたケースも同様です。

 胸を切り開かずに済むので患者さんの負担が少なく、成功すれば通常の生活が送れるようになります。ただし、デメリットもあります。中でも、血管の内部を画像診断するために使う造影剤は注意が必要です。

 造影剤は時に腎臓に大きなダメージを与えます。造影剤を使用するカテーテル治療を受けたことがきっかけで、腎機能がどんどん悪化してしまうケースもあります。そのため、治療をする前に腎機能の検査をしっかりやっておかなければなりません。

 最近の造影剤は副作用が少なくなってきていますが、それでも、1万人に1人ぐらいの割合で、アナフィラキシーショックを起こす患者さんがいます。今年の4月には、脊髄に誤った造影剤を注入された女性患者が亡くなり、投与した研修医が書類送検される医療事故がありました。造影剤は、そうした重大なトラブルを引き起こす可能性がある薬なのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。