天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

睡眠薬の常用がいちばん困る

 手術中も、麻酔が効きにくかったり、血圧が高めに推移したりといったマイナス面がありますが、こうしたリスクは経験があればだいたい回避できるものです。しかし、外科医の力が及びにくい部分、「患者さんがもともと抱えている“持病”をどうやってなだめながら管理するか」という問題は、一筋縄では対処できません。

 どうしても、患者側の「睡眠薬を飲みたい」という権利を認めるか、病院側の「安全管理」を優先させるかのせめぎ合いになります。

 こちらが「危ないのでロープの中には入らないでください」と言っているのに、患者さんは「いつもはもっと近くまで行っているんだからいいじゃないか」と入ってきてしまう。それだけ、睡眠薬を常用している患者さんは厄介なのです。

 喫煙の習慣がある患者さんに困ったこともあります。私がまだ30代前半だったころ、冠動脈バイパス手術を受けるために大阪から足を運んできた50代の患者さんがいました。「手術には禁煙して臨む」というのが大原則でしたが、その患者さんは一向にたばこをやめません。当時は病院内の禁煙が徹底されていなかったこともあり、他の患者さんが何人もいる病室でも、お構いなしにたばこをふかしていました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。