天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

体調の変化を医師に伝えれば合併症のリスクは減る

 弁膜症の手術をした50代の男性患者さんは、心臓の機能が戻ったことで急速に食欲が回復し、退院してからドカ食いを繰り返すようになりました。56キロだった体重はアッという間に90キロ近くまで急増。30キロも体重が増えたことで、埋め込んだ人工弁の大きさが体格に見合わなくなり、再手術が必要になってしまいました。

 また、心臓を手術して血流がスムーズになることで、術前はそれほど血圧が高くなかった人が高血圧気味になり、脳出血を起こして入院したり、そのまま亡くなったりするケースもあります。

 手術する際、多くの医者は心臓だけではなく、想定できる影響を全身トータルで考えています。しかし、自分の予測と患者さんの回復具合にずれが生じ、そのずれの中で合併症が起こる場合があるのです。

 そうした「ずれ」を埋めて合併症のリスクを小さくするためには、患者さんの日頃の自己管理が大切になってきます。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。