天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

深夜の緊急手術で解離性大動脈瘤に対応

 前回の「虚血性心疾患」に続き、今回はこのところ増えてきている「大動脈疾患」を取り上げます。

 大動脈は体の中で最も太い血管(直径2~3センチ)で、心臓から全身に血液を送り出す重要な役割を担っています。動脈硬化や外傷によって、その大動脈の一部が膨らんで“こぶ”のようになってくる病気が大動脈瘤です。食生活の欧米化や高齢化社会の進展により、近年は患者さんが増えています。

 こぶがそれほど大きくなければ問題ありませんが、急激に膨らんで破裂すれば、命取りになる可能性が高いのです。破裂した場合、助かる確率が2割程度しかありません。

 こぶの形とでき方によって、「真性」「仮性」「解離性」の3つのタイプがあり、中でも危険なものが「解離性大動脈瘤」(大動脈解離)です。何の前触れもなく、いきなり血管が裂けて解離し、1度目の発症で突然死するケースも少なくありません。去年の12月には、歌手の大滝詠一さんがこの病気で亡くなっています。

1 / 3 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。