天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

現代社会は心臓のリスクを急増させている

 血圧が高いと、心臓が血液を送り出す際に、より大きな力が必要になります。とりわけ心臓の後方部分に強い抵抗を受け続けることになり、だんだん横向きに寝た状態に変形してしまうのです。本来、血液は頭の方向に向かって送り出されていますが、心臓が寝てしまうとまっすぐ頭の方向に向かわず、心臓の出口にある大動脈に向かいます。そこに高い血圧が常にかかっていると、大動脈解離を引き起こします。血管の内壁に亀裂が入り、血管が破裂して大出血を起こす命に関わる病気で、昨年12月には歌手の大瀧詠一さんがこの病気で亡くなっています。

 かつては、血管が脆弱な体質の人など、非常に限られた人にみられる病気でした。しかし最近は、常にストレスを受けながら、高血圧を放置しているような中高年サラリーマンに増えています。現代病のひとつと言っていいでしょう。今年4月、日本人間ドック学会が高血圧の基準値を緩めたことが話題になりましたが、心臓外科医の立場から言わせてもらえば、甚だ疑問です。高血圧に関しては、1次予防をもっと厳しくするべきです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。