天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

左心耳縫縮術が脳梗塞を防ぐ

 また、術後に心房細動による脳梗塞を防ぐには、血液をサラサラにする抗凝固剤を飲むしか方法がありません。しかし、人工的に血を止まりにくくする薬は、何かアクシデントがあった時に重篤な状態になってしまうリスクが高い。手術を受けた後、抗凝固剤を飲んでいた患者さんが転倒し、脳出血を起こして植物状態になってしまったケースもあります。

 そうした心配を取り除いていただきたいという思いから、当時、78歳とご高齢だった陛下に左心耳縫縮術を受けていただいたのです。実際、手術中に心房細動が起こりましたが、万全の準備を整えていたおかげでスムーズに処置を行うことができました。これによって、心臓の血栓が原因で脳梗塞を起こす可能性はほぼなくなったと自信を持っています。

 心臓手術がどんなに完璧でも、術後に脳梗塞を起こす患者さんは少なくありません。しかし、同時に左心耳縫縮術を行っておけば、かなりの割合で脳梗塞の心配を取り除けるのです。われわれが取っているデータでも「脳梗塞のリスクが高い人に対しては、左心耳縫縮術によって脳梗塞をほぼパーフェクトに防げる」ことがわかっています。近いうちに海外の学会で発表する予定です。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。