陛下の手術を行った当時、左心耳縫縮術は他では行われていませんでした。まだエビデンス(科学的根拠)がありませんでしたし、多くの医師が「余計なリスクを背負ってまで行う必要はない」と二の足を踏んでいたのです。
しかし、それほど難しい手術ではないですし、私には術後の脳梗塞を抑えられるという確信がありました。25年ほど前に登場したメイズ手術を見ても、左心耳を切っても問題ないということはわかっていました。そこで、われわれが手がける冠動脈バイパス手術ではすべて左心耳縫縮術を行い、予後も良好であるというデータを積み重ねてきました。
陛下の手術以降、われわれはすべての心臓手術を受ける患者さんに対し、左心耳縫縮術を行っています。1年ほど前、陛下と同じ時期に冠動脈バイパス手術と左心耳縫縮術を行った50代の患者さんの再手術をしました。その際、心臓の中を確認してみたところ、跡形もなく治っていて、自分の手術は正しかったと改めて心強く思いました。
われわれは、いまも少しずつ前進しています。だれもが陛下よりさらに進んだ手術を受けることができるのです。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」