薬に頼らないこころの健康法Q&A

入学試験に夜型はない

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

【Q】
 高田真一(仮名、19歳)と言います。医学部志望の浪人生です。9月に入り、朝、調子が出ません。午前中の予備校の授業中は眠くて仕方なく、無理に出ても集中できません。午後になって調子が出てきます。多分、僕は夜型なのだと思います。それで、予備校のチューターに相談して、「午前中の授業を取らないようにして、午後と夕方だけ出たい」と言ったところ、「ダメだ。体調が悪いなら、まずはメンタルクリニックを受診しろ」と言われました。それで、勧められたクリニックに行ったら、生活習慣を改めるよう言われました。そして、「夜0時就床、7時起床」を勧められました。僕はそれまでは、大体深夜2時に寝て朝7時か8時に起きる生活でした。夜0時をすぎてから勉強の調子が上がるのです。誰も、僕が夜型だということをわかってくれず困っています。

【A】
 医学部の入学試験は、たいてい午前9時前後から始まります。昼過ぎに行われることはありません。受験生のなかには高田君のように夜型もいるでしょうけれど、そんな生徒に気を使って、昼過ぎから試験を開始する医学部はありません。高田君は、深夜0時を過ぎてから頭の調子が良くなるということですが、そんな高田君のために、特別に深夜0時から入学試験を始めてくれる医学部は、全国に一校もありません。

 朝、起きられない生徒は、入学試験に間に合いません。遅刻した生徒は、試験会場には入れません。深夜0時にならないと調子が出ない脳では、試験に受かりません。午前9時に調子が出る脳みその持ち主だけが、医学部に合格するのです。

 夏の間なら、暑い昼間を避けて、夜、涼しくなってから勉強したい気持ちもわかります。でも、もう秋です。涼しくなりました。昼間から勉強しても大丈夫。それに入学試験は日に日に迫ってきています。体調のほうも試験の時間帯に合わせてつくっていきましょう。

 睡眠時間を削って勉強してはいけない。7時間は眠ってください。目覚めている17時間の密度を濃くすることを考えましょう。その気になれば、17時間をすべて勉強に費やすことだってできます。食事中は英語を聴きながら食べれば、リスニングの練習になる。入浴中だって、さっき覚えた社会科の知識を復習する場にすればいいでしょう。

 でも、そんな無理をする前に、一日の過ごし方を見直しましょう。漫然とゲームをしたり、スマホの画面を見たり、ラインやメールで時間を浪費してみたり……。そんな時間を徹底的に削りましょう。そうすれば、7時間眠って、食事、入浴、通学に合計5時間ぐらい費やしても、まだ12時間も勉強できます。

 9時から16時までの7時間は、昼食時間以外は全力で勉強しましょう。体のリズムを入学試験の時間帯に合わせるためです。そのためには、ドクターが勧めたような「0時就寝、7時起床」、あるいはもっと早めて「11時就寝、6時起床」とするといいでしょう。

 ついでに申し上げておきますと、医者はすべて朝型です。夜型の医者はいません。外科医なら8時にはもう病院に集合しています。麻酔科医なら7時です。それに合わせて起きようとすれば、当然、6時か7時には起きています。だから、夜更かしもしません。皆、夜は早くに寝ています。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。