天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

オフポンプ手術が負担を軽減させる

 それまでは、負担を考慮して手術を受けられなかった高齢者や、他の病気も抱えている患者にも対応できます。陛下も当時は78歳とご高齢でしたので、負担が少なく、自分が普段から一番やり慣れているオフポンプ手術を選択したのはごく自然なことでした。

 オフポンプ手術は90年代後半に日本に紹介されましたが、多くの心臓外科医は実施をためらっていました。速く正確な技術を求められるからです。もたもたしている時間はないですし、手術を始めたら後戻りはできません。途中で人工心肺に切り替えるのは、術後の状態が悪くなるというデータも出ています。

 しかし、私は誰よりも早くオフポンプ手術を開始し、可能な限りすべてのバイパス手術をオフポンプ手術で行うことにしました。とくに高齢者や臓器の機能が弱っている患者に対し、従来の手術よりも良好だという手応えがあったからです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。