今年の6月、6年前に冠動脈バイパス手術を受けた50代後半の女性患者の再手術をしました。その女性は、最初の手術の時、長もちするとされている左内胸動脈と左足の静脈が、バイパスの血管として使用されていました。
バイパス手術に最適な血管が使われてしまっている状況の中、今回の再手術では、右側の内胸動脈と、腹部にある胃大網動脈を使いました。なるべく長期間もつ血管を選択した結果です。
もし、手術経験が少ない医師や、欧米の病院なら、胃大網動脈は絶対に使われなかったでしょう。おそらく、残っている右足の静脈を使っていたはずです。しかし、足の静脈は“賞味期限”が短く、早い段階で傷んできます。心臓に血流を送る血管としては、本来の血管よりも先に機能しなくなることが今では常識になっているのです。
かつては、足の静脈がどれぐらい長くもつかというエビデンスもなく、「いちばん安全で簡単に使える血管だから」という理由で使われていました。それが現在は、「足の静脈の耐久性は13~15年」というしっかりしたデータが出ています。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」