天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

手術の賞味期限をいかに延ばすか

 今年の6月、6年前に冠動脈バイパス手術を受けた50代後半の女性患者の再手術をしました。その女性は、最初の手術の時、長もちするとされている左内胸動脈と左足の静脈が、バイパスの血管として使用されていました。

 バイパス手術に最適な血管が使われてしまっている状況の中、今回の再手術では、右側の内胸動脈と、腹部にある胃大網動脈を使いました。なるべく長期間もつ血管を選択した結果です。

 もし、手術経験が少ない医師や、欧米の病院なら、胃大網動脈は絶対に使われなかったでしょう。おそらく、残っている右足の静脈を使っていたはずです。しかし、足の静脈は“賞味期限”が短く、早い段階で傷んできます。心臓に血流を送る血管としては、本来の血管よりも先に機能しなくなることが今では常識になっているのです。

 かつては、足の静脈がどれぐらい長くもつかというエビデンスもなく、「いちばん安全で簡単に使える血管だから」という理由で使われていました。それが現在は、「足の静脈の耐久性は13~15年」というしっかりしたデータが出ています。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。