有名病院 この診療科のイチ押し治療

【HIV】豊島病院・感染症内科(東京・板橋区)

豊島病院の味澤篤副院長(右写真はイメージ)
豊島病院の味澤篤副院長(右写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 セックスによる感染が9割以上を占めるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)。

 感染すると無症状のまま体の免疫細胞が破壊され、活動性結核やカポジ肉腫など、指定される23のいずれかの病気を発症して初めてエイズと診断される。

 近年、国内のHIV感染者とエイズの新規患者は年間計1500人前後で推移し、昨年までの累計で約2万4000人の患者がいると報告されているという。

 同院は、明治30年に東京都(当時は府)の伝染病院として発足した歴史があり、現在も感染症医療に重点を置く。エイズ治療拠点病院としての役割もそのひとつだ。内科系診療科を統括する味澤篤副院長(写真)はこう話す。

「治療法が進歩し、HIV感染症は“怖い病気”でなくなりました。早期発見して、きちんと薬を服用していれば95%以上はエイズの発症を抑えられ、他人への感染も予防できます。また、たとえエイズを発症しても治療を続ければ、9割の人は普通の生活が送れます。今は治療で管理できる『慢性感染症』というとらえ方がされています」

 HIV感染症とエイズ発症後の治療は基本的には同じで、ウイルスの増殖を抑える抗HIV薬を生涯飲み続ける。作用の違う複数の抗HIV薬を組み合わせる「多剤併用療法」が標準的だ。

 従来は飲む錠剤の数が多かったり、下痢や発疹などの副作用も出やすかった。それが、複数の薬の合剤や副作用の出にくい新薬が相次いで登場。患者の服薬の負担が減り、薬の耐性ができる割合が格段に減っている。

「新薬が次々開発されるので、1~2年で薬の選択が変わってきます。当科の特色は、常に最新のガイドラインに沿った最先端の治療を提供しているところです。現在の薬の第1選択肢は4種類、第2選択肢でも4種類以上ある。症例が多く、慣れた施設でないとうまく使いこなせません」

 紹介患者の中には、古い治療法を受けている患者が少なくないという。同科の抗HIV療法の基本は、1日1回、1回1錠、インテグラーゼ阻害薬を中心に組み合わせた合剤で、米国でもスタンダードな内容だ。常時40~50人の患者が治療を受けている。

 また、治療法の進歩で患者の余命はHIV感染のない人と変わらなくなってきている。患者の年齢が高まるにつれ、生活習慣病などの持病の薬との飲み合わせで、抗HIV薬の種類を変えていく必要があるという。

「抗HIV薬でエイズの発症は抑えられますが、感染歴や服薬が長くなると、指定の23疾患以外の合併症にもかかりやすくなる。実際には、エイズで亡くなるより、複数の合併症で亡くなる人の方が多い。エイズ治療は合併症の対策が非常に重要になるのです」

 起こりやすい合併症は、骨折(寝たきり)、がん、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞など。認知症の症状に似たHIV関連神経認知障害(HAND)も問題になってきている。

 同科は、地域の総合病院という特徴を生かし、風通しのいい各診療科との連携で包括的なエイズ治療が行えるのが大きな強みだ。

▽旧東京都立病院。2009年4月、経営を東京都保健医療公社に移管。
◆スタッフ数=医師4人(うち非常勤2人)
◆年間初診患者数(14年度)=150人
◆HIV・エイズの年間初診患者数(同)=12人(紹介患者率約80%)