徹底解説 乳がんのなぜ?

触ってしこりを見つけても死亡率は下がらない

北斗晶と佐々木健介夫妻
北斗晶と佐々木健介夫妻(C)日刊ゲンダイ

 乳がんは、自分で触って「しこり」を確認できるがんだといわれている。定期的に自己触診すれば早期発見が可能で、死亡率の低減につながるとして、30年以上も前から日本を含む世界中で指導されてきた。

 手のひらと5本の指を使う平手触診、人さし指・中指・薬指の指の腹で乳房の表面全体を軽くなでてしこりがないかどうかをチェックする指腹法、わきの下のリンパ節を触ったり、乳首を軽くつまんで乳をしぼるようにして分泌物や血液が出ないかどうかを調べるなど、さまざまなチェック法が指導されている。

 しかし、自己触診だけでは、乳がんの死亡率は減らないという。板橋中央総合病院乳腺外科の上野貴史医師が説明する。

「自己触診に関しては、たとえ定期的に行ったとしても、乳がんによる死亡率は減少しないという大規模研究の結果が報告されています。乳がんはある程度の大きさを超えると、そこから先は大きくても小さくても治療成績はそれほど違いがありません。自己触診して見つかるがんの大きさは多くが2センチ程度。早期とはいっても、治療成績に差が出ない時期といえます。自己触診だけに懸命に取り組んでも、効果は期待できないのです。夫が協力してしこりを見つけようとしても同じことです」

 乳房自己触診の無作為化大規模試験として世界的に注目された「上海研究」は、中国の女性工場労働者約27万人を対象に実施された。①自己触診を行ったグループ②行わなかったグループに分けて10年以上も追跡したところ、乳がんによる死亡率はどちらも変わらず、乳がんと診断された時の進行度も同じだった。また、自己触診を指導しても早期発見にはつながらないことも明らかになった。

「かつては、自己触診が有効かどうかに関するしっかりした調査が行われていなかったため、日本では『がんは早期発見した方がいいに決まっている。とにかく自分で触って見つけましょう』とされていました。しかし、海外の大規模研究が報告されはじめ、いまはそこまで勧めるケースは少なくなっています」(上野医師)

 現在、米国では「自己触診は良性疾患の発見は増えるが、死亡率低減効果はないので奨励しない」とされている。日本でも、国立がん研究センターの「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン」で、視触診単独法は死亡率の減少効果の有無を判断する証拠が不十分で利益と不利益のバランスが判断できないとして、推奨グレードは低い。

 右乳房の全摘出手術を受けた北斗晶は、詳細な検査で2センチを超えるがんが見つかった。しかし、「疑いを持って直視しても乳頭の近くだったからだと思いますが指に触れて分かるシコリは自分では感じず、胸の異変を感じた時には、初めは違う乳腺の病気を疑いました」

「その場で直視して触ってもシコリらしき感触はなく、年齢によるたるみなんだろうな~!そうとしか思いませんでした」とブログにつづっている。

 定期的な自己触診は、乳がんに対する意識を高め、検診に行く機会を増やして早期発見につなげるために行うもの――という程度に考えておいた方がよさそうだ。