医療数字のカラクリ

ばらつきの重要性

 このばらつきを示す指標に「標準偏差」という指標があります。これが大きければ大きいほどデータのばらつきが大きいということになります。

 計算式は省きますが、この市の8月の最高気温の標準偏差は「5」と計算されます。平均値よりこれの2倍の10を超えるような時はほとんどないと考えられます。実際に最高気温の平均30.6度より10度高い、あるいは10度低いという日はありませんでした。

 ここで、インフルエンザの治癒期間の平均と標準偏差を論文結果から見てみましょう。治癒期間の平均日数は7日、標準偏差は6.5日です。つまり標準偏差の2倍が13日ですから、「7+13=20日を超えて治らない人はほとんどいないが、すぐ治ってしまう人は案外いるかもしれない」ということが推測されるのです。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。