独白 愉快な“病人”たち

漫画家・やくみつるさん(56) 痛風・尿路結石

やくみつる氏
やくみつる氏(C)日刊ゲンダイ

 痛風の発作は、後にも先にも1回だけ経験があります。今から二十数年前の30代前半でした。ある朝、起きたら甲から足の全体がパンパンに腫れ上がっていた。それ以前も時々、足の親指がシクシクするなぁとは思っていたんですが、当時は「痛風」という概念すら頭になかったので、それが痛風なるものの症状だとも思わなかった。

 足がパンパンに腫れた状態になって初めて医者に行き、血液検査で尿酸値が高い、痛風だと言われて、「あ~、これが痛風というものの症状なのか」とその存在を知ったわけです。その後は薬を飲み続け、今は尿酸値も正常値を保っています。 一般的に痛風の痛みは耐えられないといわれますが、自分はその数年前に尿管結石を発症するという経験をしていたので、それに比べたら、痛風の痛みは500分の1程度にしか感じられませんでした。

 尿管結石の時は、本当に腹がちぎれるんじゃないかというくらい痛かった。体を二つに折り曲げた状態で「いてぇ~」という声さえ上げられない。尋常でない痛さなんです。

 人間が大音声を発せられるのは、体が反っている時。「クッ」と体が丸まっている時は大声すら出せないんですね。ブラックホールがすべてをのみ込んでしまうのと同じように、体全体がブラックホールみたいになって発散するものがなく、丸まってしまう。そのくらい痛い。ただ脂汗はにじみ、腹が引きちぎられるようでした。

 この時は「尿管結石」という概念さえ知らなかったので、近所の医者に行ったら「盲腸じゃないか」と言われて家に帰りました。ところが、その数時間後、さらに激烈に痛くなって、国立の医療センターに駆け込んだら「尿管結石」と診断された。肩に注射された記憶があるので、痛み止めを打ったのでしょう。それだけで帰宅しました。

 結石は「砕いて体内から出す」という処置が行われることが多いようですが、自分の場合は自然に出るのを待ちましょうという診断だったと思います。「出てくると思うから観察しててね」と医師に言われ、しばらくの間、茶こしを持ち歩いてました。「石をこの目で見てやりたい」と思ったんです。

 ところが、出先で茶こしを用意していない時にどうも出ちゃったらしい。尿道を通る時に、異物感があって、「あ、これかな」と思った瞬間があったんです。残念ながらこの目で確認することができなかった。

 その後、しばらくして2個目が出ました。1度出たのでもう終わったと油断していたら、また異物感があった。この時は自分の目でしかと確認しましたよ。3ミリくらいの大きさでした。

 今でも、自分の体内に石があるんです。最近は毎年、人間ドックに行っているので、あることは確認済みです。そいつが動いた時にまた例の痛みに襲われる……。いつ動くかですよね。平時ならいいけど、旅先で動かれたらたまらない。

 それが嫌だから、砕いてしまおうかとも思うのですが、医師からは「まだそれほどでもない」と言われる。いっそのこと成長してくれ! とも思うんですが、今のところずっと同じ程度で推移しています。

 ただ、自分には結石があるんだということを知っていれば、あの尋常ならざる痛みに襲われても「大騒ぎすることじゃないんだ。たまたま石が動いているだけ」と思えます。後付けの知識ではあるけど、生命に危険が及ぶまでの痛さじゃない。これは、ただ痛いだけなんだと思えば耐えられる。

 かつて「木枯し紋次郎」というテレビドラマがあって、その主題歌の歌詞に「痛みは生きているしるしだ」というのがあります。これは染みますね。

「いてぇのは生きてるからなんだ」──。そう思えばいいんですよ。

▽早稲田大学商学部を卒業後、出版社勤務を経て野球4コマ漫画の単行本でデビュー。96年に文藝春秋漫画賞を受賞した。現在はテレビのコメンテーターやエッセイストとしても活躍。好角家として日本相撲協会外部委員も務めた。